
建設コストの上昇が止まりません。
建設工事費デフレーター(建設総合)は、2016年を100とした場合に2025年12月時点で133.6。約10年間で建設コストが34%上昇したことを意味します(国土交通省「建設工事費デフレーター」)。
この上昇は工事の受注単価にどこまで転嫁できているのか。利益率はどう変化しているのか。本記事では、建設資材の価格推移から受注動向、コスト構造の変化まで、建設業のコスト問題をデータで整理します。
最新のグラフは建設コストデータダッシュボードで確認できます。
建設工事費デフレーターの推移:10年で34%上昇
経営者への示唆: 建設コストは10年で3割以上上昇しました。しかし全ての工種が均等に上がっているわけではありません。鉄筋が36%と最も高く、木造住宅は31%。自社が扱う工種のコスト上昇率を正確に把握しないと、見積もりの根拠が甘くなります。
建設工事費デフレーターとは
建設工事費デフレーターは、建設工事にかかる費用の変動を指数化したものです。国土交通省が毎月公表しており、建設工事の実質的なコスト変動を把握する基本指標です。
2015年度を100とする基準で算出されています。数値が上がるほどコストが上昇していることを意味します。
工種別の上昇率(2016年1月→2025年12月)
工種 | 2016年1月 | 2025年12月 | 上昇率 |
|---|---|---|---|
建設総合 | 99.8 | 133.6 | +33.9% |
鉄筋コンクリート造 | 99.5 | 135.3 | +36.0% |
鉄骨造 | 99.6 | 133.9 | +34.4% |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 99.6 | 133.8 | +34.3% |
土木総合 | 99.7 | 133.6 | +34.0% |
木造住宅 | 100.1 | 131.3 | +31.2% |
鉄筋コンクリート造が+36.0%で最も高い上昇率です。木造住宅は+31.2%で相対的にはマシですが、それでも10年で3割の上昇は施主にとって大きな負担です。
上昇の3つの波
建設コストの上昇は一本調子ではなく、3つの波がありました。
第1波(2018〜2019年): 東京五輪関連の建設需要が集中し、人件費・資材費がじわじわ上昇。
第2波(2021〜2022年): いわゆる「ウッドショック」と鉄鋼価格の急騰。木材価格は2021〜2022年にかけて大幅に上昇しました。コロナ後の世界的なサプライチェーン混乱と円安が重なった結果です。
第3波(2023〜現在): 資材価格は高止まりしつつ、労務費が上昇。設計労務単価の13年連続引き上げ(2025年度は全国平均日額24,852円)が象徴的です。
資材別の価格動向:何が上がり、何が落ち着いたか
経営者への示唆: ウッドショックのピークは過ぎましたが、価格は2020年以前の水準には戻っていません。鉄鋼はロシア・ウクライナ情勢と円安の影響で高止まり。セメント・生コンは電力コスト上昇の影響を受けています。
木材
2021年に始まったウッドショックは、北米の住宅需要急増、海上輸送コンテナの不足、国内製材所の供給能力の限界が重なって発生しました。輸入木材価格は大幅に急騰しました(農林水産省「木材統計」)。
2023年以降は下落に転じましたが、2020年以前の水準には戻っていません。国産材への関心が高まっており、需給バランスにも変化が見られます。
鉄鋼・鉄筋
鉄筋コンクリート造の建設工事費デフレーターが+36.0%と全工種で最大の上昇率です。これは鉄筋単体の価格ではなく、鉄筋コンクリート造の建設コスト全体(資材・労務・諸経費を含む)の上昇を示しています。原料の鉄鉱石・石炭(原料炭)の国際価格に加え、電炉メーカーの電力コスト上昇が影響しています。
鉄鋼は国際商品であるため、為替の影響を強く受けます。円安が進むと輸入鉄鋼の価格が上がり、国内メーカーも追随して値上げする構造です。
セメント・生コンクリート
セメントは石灰石(国内調達)が主原料ですが、焼成に大量のエネルギーを使用します。電力・燃料価格の上昇がコストに直結しています。
生コンは配合するセメント・骨材・混和剤に加えて、ミキサー車の燃料費・人件費も上昇しており、複合的なコストプッシュが発生しています。
建設工事受注の動向:コスト上昇は受注額に転嫁できているか
経営者への示唆: 受注額は名目では増加傾向ですが、建設コストの上昇を差し引くと実質的な工事量は横ばいか微減です。「売上は増えたが利益は変わらない」状態が続いている可能性があります。
受注額の推移
国土交通省「建設工事受注動態統計調査」によると、建設工事の受注額は名目では増加傾向にあります。2024年3月の受注額は合計約13.8兆円(月額)で、建築工事が約8.1兆円、土木工事が約4.6兆円です。
種類別の構成
種類 | 2024年3月受注額(百万円) | 構成比 |
|---|---|---|
建築工事 | 8,066,396 | 58% |
土木工事 | 4,634,753 | 34% |
機械装置等 | 1,124,759 | 8% |
建築工事が6割弱を占めます。住宅着工の減少にもかかわらず建築受注が大きいのは、非住宅(オフィス・商業施設・物流施設等)の大型案件が牽引しているためです。
発注者別:民間が6割
発注者 | 2024年3月受注額(百万円) | 構成比 |
|---|---|---|
民間 | 6,229,971 | 62% |
公共 | 3,854,105 | 38% |
民間工事が約6割。公共工事は年度末(3月)に集中する傾向があり、月次データの季節性に注意が必要です。
名目と実質の乖離
受注額が増えていても、建設コストが34%上昇しているなら、実質的な工事量(面積・棟数)は増えていない可能性があります。
たとえば受注額が10%増えても、コストが34%上がっていれば、同じ金額で施工できる範囲は狭くなっています。「受注は好調」でも「利益率は改善していない」という構造が、建設業の経営を圧迫しています。
設計労務単価の推移:人件費はどこまで上がるか
経営者への示唆: 設計労務単価は13年連続で引き上げられています。公共工事の見積もり根拠として重要ですが、この単価が末端の技能者にどこまで届いているかは別の問題です。
13年連続引き上げ
国土交通省が毎年2〜3月に公表する公共工事設計労務単価は、2025年度で全国全職種平均日額24,852円(前年度比+6.0%)です。
2012年度の引き上げ開始から13年連続の増加で、当時と比較すると約60%の上昇になります。
職種による差
設計労務単価は職種ごとに設定されており、不足度合いの高い職種ほど上昇率が大きい傾向があります。特殊技能を持つ職種(型枠工・鉄筋工等)は平均よりも高い上昇率を示しています。
労務単価と実際の賃金の乖離
設計労務単価は公共工事の積算に使う「基準値」であり、実際に技能者が受け取る賃金とは異なります。元請が受注した工事代金が重層下請け構造の中で配分される過程で、労務単価の引き上げ分がすべて末端に届くわけではありません。
この構造的な課題については、当サイトの建設業の人手不足データでも詳しく分析しています。
コスト上昇への対応策:データに基づくアプローチ
経営者への示唆: コスト上昇は避けられません。重要なのは「どこが上がっているか」を正確に把握し、見積もりに反映することです。「なんとなく高くなった」では交渉力が持てません。
見積もりの精度向上
建設工事費デフレーターや資材価格指数を見積もりの根拠として活用することで、発注者への価格交渉の説得力が増します。「建設コストは10年で34%上昇しています」という客観的データは、感覚的な「高くなりました」よりも強い交渉材料です。
当サイトの建設コストデータダッシュボードでは、建設工事費デフレーターの推移をインタラクティブに確認できます。見積もり根拠の作成にご活用ください。
VE(バリューエンジニアリング)の活用
資材の代替検討、工法の見直し、発注時期の調整など、VEの余地は多くあります。ただし安易なコストカットは品質に影響するため、「何を削って何を残すか」の判断にもデータが必要です。
価格転嫁の交渉
国土交通省は「スライド条項」の適用推進や「適正な請負代金の設定」を発注者に求めています。資材価格や労務費の上昇を客観的データで示すことが、価格転嫁交渉の第一歩です。
公共工事においては、スライド条項の適用による契約変更の事例が増加しています。
まとめ:データが示す建設コストの3つの構造問題
1. コスト上昇は一過性ではない
10年で34%の上昇。ウッドショックのような急騰は収まりましたが、労務費の上昇が新たなコストプッシュ要因になっています。元の水準には戻りません。
2. 名目受注の増加≠利益の増加
受注額は名目では増加していますが、コスト上昇を差し引いた実質ベースでは横ばいか微減。「忙しいのに儲からない」構造が続いています。
3. 価格転嫁の成否が生死を分ける
コスト上昇を受注単価に転嫁できる企業とできない企業で、利益率の格差が拡大しています。転嫁のためにはデータに基づく根拠の提示が不可欠です。
建設コストのデータは毎月更新されています。建設コストデータダッシュボードで、工種別デフレーターと受注動向をインタラクティブに確認できます。
関連データ記事
このテーマに関連する記事を今後順次公開予定です:
- 鉄筋価格の推移と今後の見通し
- 木材価格の推移:ウッドショック後の最新動向
- 公共工事設計労務単価の推移【2026年最新】
- 円安が建設資材価格に与える影響をデータで分析
出典:各省庁公式データ。実際の取引価格とは異なる場合があります。参考値としてご利用ください。