
⚠️ 本記事の労務・採用情報は公開統計に基づく参考値です。賃金・労働条件は地域・企業規模により異なります。
建設業の年収は全産業平均を上回っています。厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、建設業の月間現金給与総額は全産業平均を一貫して上回り、2022年初の約41.7万円から2025年末の約46.1万円へ約10%上昇しました。国税庁「民間給与実態統計調査」(2024年発表・2023年分)でも、建設業の平均年収は529万円で、全産業平均の460万円を大きく超えています。
にもかかわらず、建設業の就業者数は477万人まで減り、20年間で140万人が現場を去りました(出典:TDB 2025年調査)。人手不足感は71.3%と過去最高を記録し、中途採用求人は2019年比190.2%に急増しています(出典:マイナビ 2025年調査)。日銀短観の建設業雇用人員判断DIは▲57と、深刻な人手不足を示しています(出典:みずほリサーチ&テクノロジーズ 2024年)。
賃金データの上では「高い」のに人が来ない。この矛盾はどこから生まれているのか。公的統計を読み解きながら、採用戦略への示唆を整理します。最新の賃金・雇用データはデータで見る建設業の人材とデータで見る建設業の求人で確認できます。
職種別の年収レンジ:施工管理と技能工で200万円の差
「建設業の年収」と一括りにすると実態を見誤ります。職種による賃金格差は極めて大きく、同じ建設業でも別世界です(出典:厚労省「賃金構造基本統計調査」2024年)。
施工管理技士
1級建築施工管理技士の年収帯は500〜700万円です。電気工事施工管理技士になると550〜750万円に上がります。資格手当(月2〜5万円)が加算されるケースが多く、大手ゼネコンでは30代後半で700万円を超える事例も珍しくありません。2024年問題(残業上限規制)以降、施工管理のできる人材への需要はさらに増しており、転職市場では「1級施工管理技士保有」が年収100万円以上のプレミアムをつけています。
技能工(多能工・専門工)
型枠工・鉄筋工の熟練クラスは日当2.5〜3.5万円、年収換算で500〜700万円になります。とび工も同水準です。ただし、これは熟練者の数字です。経験3年未満の見習いは日当1.2〜1.5万円で、年収換算300万円前後にとどまります。「建設業は稼げる」という話は、10年以上の経験と技能を持つ層の話であって、入口の報酬は小売業やサービス業と大差ありません。
普通作業員・事務職
普通作業員は日当1.5〜2万円で、年収換算300〜400万円です。建設業の事務職は年収300〜450万円が多く、他産業の事務職と比べて高いわけではありません。現場に出ない職種は、建設業の「年収が高い」という統計上のメリットを享受しにくい構造です。
年齢別・経験年数別の年収カーブ:20代が最も割を食う
建設業の年収カーブには特徴的なパターンがあります(出典:厚労省「賃金構造基本統計調査」2024年)。
20〜24歳の平均年収は約320万円。25〜29歳で約400万円。ここまでは製造業やサービス業と大差ありません。差がつき始めるのは30代後半からです。35〜39歳で約500万円、40〜44歳で約550万円に達します。50代前半がピークで約580万円。全産業平均(50代前半で約530万円)を50万円上回ります。
問題は「30代半ばまで我慢できるか」という点です。20代の10年間、製造業やIT業界と大差ない(あるいは下回る)報酬で、かつ肉体労働・早朝出勤・週休1日という条件を受け入れるかどうか。3年以内離職率が高卒で45.3%に達する背景は、この年収カーブの形状と無縁ではありません(出典:厚労省「新規学卒就職者の離職状況」2024年公表)。
さらに建設業特有の事情として、資格取得が年収ジャンプの条件になっています。2級施工管理技士を取得すると月2〜3万円の手当がつき、1級取得で月3〜5万円に増えます。資格手当だけで年間36〜60万円の差がつくため、「何年働いたか」よりも「どの資格を持っているか」で収入が決まる構造です。この情報が入職前の若者に届いていないことが、応募数の伸び悩みにつながっています。
製造業との比較:数字の上では勝っているのに応募が来ない
建設業の賃金は製造業を上回っています。毎月勤労統計調査のデータを見ると、ボーナス月を除いた通常月の月間現金給与総額では、建設業が製造業を2〜4万円上回る傾向が続いています。年間ベースでも、建設業の平均年収529万円に対し、製造業は約430万円です(出典:国税庁「民間給与実態統計調査」2024年発表)。
それでも製造業の方が人を集めやすい。なぜか。
第一に「安定感の見え方」が違います。製造業は月給制が基本です。毎月の手取りが一定で、天候に左右されません。住宅ローンの審査でも、月給制の方が有利に扱われます。建設業の日給月給は、稼働日数によって月収が5〜8万円ブレるため、「年収は高いが月収が読めない」という不安がつきまといます。
第二に「勤務時間の予測可能性」です。製造業の多くは2交替制や3交替制で、勤務時間が明確に決まっています。残業があっても計算しやすい。建設業は天候や工程の遅れで勤務時間が変動し、「今週末も出勤」が突然決まるケースが少なくありません。
第三に「職場環境」です。製造業の工場は空調が効いた屋内です。建設現場は炎天下や真冬の屋外。同じ年収なら、快適な環境を選ぶのは当然の判断です。
「日給月給」の壁:賃金の見え方が採用力を下げている
建設業の採用を阻む最大の壁は、年収の絶対額ではなく「見え方」にあります。
日給月給とは、日額の基本給×出勤日数で月収が決まる賃金体系です。国交省「建設労働需給調査」(2024年)によると、建設技能者の約6割がこの日給月給で働いています。雨天で現場が止まれば収入が減り、正月・GW・盆の長期休暇がある月も手取りが下がります。
具体的に計算してみます。日給1.8万円の型枠工の場合を想定します。
稼働日数が22日の月(通常月)は月収39.6万円です。稼働日数が17日の月(雨天・祝日が多い月)は月収30.6万円です。差額は9万円。年間で見れば、月によって10万円近い変動があるということです。
求人票に「月収30〜40万円」と記載すると、求職者は下限の30万円を見て判断します。同じ日給1.8万円でも、月給制で「月給36万円(年間休日105日想定)」と書いた方が、応募率は明らかに高くなります。実際に支払う年間賃金はほぼ同じでも、です。
日給月給が生まれた背景には合理性がありました。天候で稼働できない日のリスクを労働者に転嫁することで、中小建設会社の固定費を抑えてきたのです。ただし、採用市場が完全な売り手市場(有効求人倍率5.04倍)になった現在、この合理性は採用力の毀損というコストに転化しています。
年収以外の要因:休日数・労働時間・福利厚生
賃金だけでは人は動きません。建設業が他産業に負けているのは、年収以外の条件です。
年間休日数
建設業の年間休日数は平均104日で、全産業平均の116日を12日下回ります(出典:厚労省「就労条件総合調査」2024年)。週休2日の現場は大手ゼネコンの元請レベルでも4割程度にとどまり、中小の下請では「日曜だけ休み」が依然として多い状況です。国交省は公共工事で週休2日制の導入を推進していますが、民間工事への波及は遅れています。年間12日の差は、時給換算すると建設業の「高い年収」の優位性をかなり削ります。
労働時間
建設業の年間総実労働時間は1,978時間で、全産業平均の1,836時間より142時間多い状態です(出典:厚労省「毎月勤労統計調査」2024年)。142時間は約18日分の労働日数に相当します。年収529万円を労働時間で割ると、建設業の時間あたり賃金は約2,674円。全産業平均(460万円÷1,836時間=約2,506円)よりは高いものの、差は168円。情報通信業(580万円÷1,750時間=約3,314円)との差は640円です。
福利厚生
建設業の社会保険加入率は、国交省の加入促進策によって大幅に改善し、3保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の加入率は2025年時点で企業ベースで98%を超えています。ただし、退職金制度の普及率は中小建設業で約60%にとどまり、建退共(建設業退職金共済制度)の証紙貼付が不十分な現場もあります。退職金制度がないことは、長期就業の動機を弱めます。
採用戦略への示唆:見え方を変え、条件を変える
データから導ける採用改善の方向性は3つあります。
月給制への移行
日給月給から月給制への切り替えは、実質的なコスト増を伴わずに応募率を改善できる数少ない手段です。大手ゼネコンの協力会社では、月給制を導入した企業で応募数が1.5〜2倍に増えたという報告があります(出典:日建連「労務対策に関する報告書」2024年)。月給制にすると社会保険料の計算基礎も安定するため、福利厚生の観点でもメリットがあります。
ポイントは「年間の人件費総額を変えない」設計です。年間稼働日数を240日と想定し、日給×240日÷12ヶ月で月給を設定します。雨天リスクは会社が吸収しますが、その代わりに「月給35万円」という求人が出せるようになります。
年間休日120日の確保
年間休日120日は、若年層が企業選択で「足切り」に使う基準です。104日では検索フィルターで除外される求人サイトもあります。週休2日+祝日+年末年始+夏季休暇で120日を確保するには、工期の設計段階から休日を織り込む必要があります。
国交省が公共工事で週休2日制を推進しているのは追い風です。民間工事でも「週休2日対応の工期設定」を施主に提案する会社が出始めています。短期的には工期延長のデメリットがありますが、中長期的には人材確保のコスト削減で回収できるとする試算もあります。
ICT化による労働環境の改善
施工管理アプリの導入は、若手にとって「この会社は変わろうとしている」というシグナルになります。ANDPAD、SPIDERPLUS、Photoructionなどのツールは、書類作業の削減だけでなく「デジタルに慣れた世代が違和感なく働ける環境」を作る効果があります。ICT土工やドローン測量の導入も、「最先端の技術に触れられる」という訴求になります。
ただし、ICTは「導入すれば終わり」ではありません。ベテラン層がツールを使いこなせず放置される現場も少なくないのが実態です。教育コストと定着施策をセットで考える必要があります。
まとめ:年収は採用の必要条件であって十分条件ではない
建設業の年収データを整理します。
- 建設業の月間現金給与総額は全産業平均を一貫して上回り、2022年初の約41.7万円から2025年末の約46.1万円へ約10%上昇した(出典:厚労省「毎月勤労統計調査」)
- 国税庁の統計では建設業の平均年収529万円。全産業平均460万円を69万円上回る(出典:国税庁「民間給与実態統計調査」2024年発表)
- ただし職種間格差が大きく、施工管理技士(500〜750万円)と普通作業員(300〜400万円)で200万円以上の差がある
- 20代の年収は製造業・サービス業と大差なく、30代半ばまでの「我慢の期間」が離職を招いている
- 日給月給制が収入の不安定感を生み、月給制の他産業に応募者を奪われている
- 年間休日104日・年間労働時間1,978時間という条件が、年収の優位性を相殺している
- 採用改善の方向性は、月給制への移行・年間休日120日・ICT化の3つ。実質的な人件費増を最小限に抑えながら「見え方」を変える
年収が高いこと自体は事実です。ただし、年収の高さは採用の必要条件であって十分条件ではありません。日給月給の不安定さ、休日の少なさ、労働時間の長さ。これらの条件が「年収が高い」というメッセージを打ち消しています。人手不足感71.3%・雇用人員判断DI▲57という数字が示しているのは、賃金水準の問題ではなく、労働条件全体のパッケージとしての競争力の問題です。
最新の賃金・雇用データは以下のダッシュボードで確認できます。
- データで見る建設業の人材(就業者数・賃金推移)
- データで見る建設業の求人(求人倍率・地域別動向)
建設業の人手不足の構造的な背景については、建設業の人手不足は本当か|求人倍率5倍でも応募が来ない構造で詳しく解説しています。


