
この記事でわかること
建設業の平均年収は543万円(賃金構造基本統計調査2023年・一般労働者・企業規模10人以上・男女計)で、全産業平均(同条件・約507万円)を上回る水準まで改善し、10年前から77万円上昇しました。ただし企業規模による格差は130万円に達し、中小企業の人材確保を困難にしています。設計労務単価は2024年度時点で12年連続上昇の23,600円ですが、重層下請構造により現場の手取りには乖離があり、2024年問題による残業代減少も新たな課題です。
主要データ
- 建設業平均年収:543万円(賃金構造基本統計調査2023年・一般労働者・企業規模10人以上・男女計)
- 企業規模別格差:大手638万円 vs 中小508万円(130万円差)
- 年収ピークは50代前半〜後半の600万円台(年代別ピークは調査年次・集計条件により異なる)
- 設計労務単価:23,600円(2024年度・普通作業員全国平均、2012年度比50%超の上昇)
- 人手不足感71.3%で過去最高(2024年12月時点、帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」)
建設現場で働く人の年収は本当に上がっているのか。設計労務単価は2024年度に12年連続上昇で全国平均23,600円(普通作業員)に達しました。
しかし現場では「手取りが増えた実感がない」という声も多いです。
本記事では厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年・一般労働者・企業規模10人以上・男女計)の公開データを基に、建設業の年収を職種別・年代別に分析します。経営者が採用競争で戦うための賃金水準の目安(参考値)も示します。
⚠️ 本記事の労務・雇用情報は公開統計に基づく参考値です。賃金・労働条件は地域・企業規模・就業形態・職種・最低賃金・割増賃金規制・社会保険料率等により異なります。実際の賃金設計は社会保険労務士等の専門家にご確認ください。
※上記チャートは毎月勤労統計(建設業・月間賃金)の推移を示しています。以下本文の年収データは賃金構造基本統計調査(年次)とは調査対象・算出方法が異なります。
建設業全体の年収水準と全産業比較
建設業の平均年収は543万円
建設業全体の平均年収は543万円(きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額、一般労働者・企業規模10人以上・男女計、2023年)です。
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・企業規模10人以上・男女計)
なお、全産業平均(同条件)は約507万円程度であり、建設業はこれを上回る水準となっています。10年前の2013年は建設業が466万円で全産業平均を下回っていましたが、この10年で77万円上昇し、格差は大幅に縮小しています。
企業規模別の年収格差は130万円
建設業では企業規模による年収格差が顕著です:
- 1000人以上: 638万円
- 100〜999人: 567万円
- 10〜99人: 508万円
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・男女計)
大手ゼネコンと中小建設会社の差は130万円に達します。中小企業が人材確保で苦戦する背景がここにあります。
職種別年収データ分析
型枠大工は年収462万円、技能による差が大きい
建設躯体工事業(型枠大工・鉄筋工・とび工等)の平均年収は462万円です。同じ職種でも技能レベルによる差が大きく、親方クラスでは600万円を超える例も珍しくありません。
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・男女計)
設備工事は高水準、電工・配管工は550万円超
電気工事業の平均年収は558万円、管工事業は554万円と建設業の中では高水準です。これらの職種は専門性が高く、資格取得による差別化が収入に直結しています。
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・男女計)
最新の推移はデータで見る建設業の人材で確認できます。
内装・仕上げ工事は456万円、多能工化が進む
内装工事業の平均年収は456万円です。クロス職人や左官など従来は単一技能だった職人も、人手不足の影響で多能工化が進んでいます。
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・男女計)
年代別の年収カーブ分析
50代が年収ピーク、技能蓄積が収入に反映
建設業の年収は50代(50〜59歳)にピークを迎える傾向があり、600万円台に達します。ただし調査年次・集計条件によって50〜54歳と55〜59歳のどちらがピークかは異なるため、以下はあくまで参考値としてご参照ください。技能の蓄積と現場経験が収入に直結する業界特性が表れています。
年代別平均年収の目安(建設業全体・2023年参考値):
- 20〜24歳: 341万円
- 30〜34歳: 465万円
- 40〜44歳: 568万円
- 50〜54歳: 609万円
- 60〜64歳: 487万円
出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年、一般労働者・男女計)
若手の離職防止には35歳時点の年収水準がカギ
建設業の年収カーブで注目すべきは30代後半の伸び率です。35歳時点での年収水準が、若手職人の定着率を左右する一つの目安となります(地域・職種・企業規模により大きく異なります)。他業界と比較して建設業は年功序列の傾向が強く、経験年数による昇給幅が大きいのが特徴です。
この点を若手採用時に説明することで、長期的なキャリアパスを示すことができます。
設計労務単価と実際の手取りの乖離
設計労務単価は23,600円まで上昇(2024年度時点)
国土交通省が発表する公共工事設計労務単価は2024年度全国平均で23,600円(普通作業員)となり、2024年度時点で12年連続上昇しています。2012年度の15,700円と比較すると50%以上の上昇です。
出典: 国土交通省「公共工事設計労務単価」(2024年度)
※なお、2025年以降に最新値が改定されている場合は国土交通省公式サイトでご確認ください。
実際の手取りは労務単価を下回る傾向
現場で働く職人の実際の日当は労務単価を下回る傾向があります。この差は元請から下請への重層構造による中間マージンが要因の一つです。また社会保険料や有給休暇の原資確保、天候による稼働日数変動への備えなどが影響しています。
処遇改善の実効性には疑問も
労務単価上昇の恩恵が現場の職人まで十分に行き渡っていない実態があります。CCUS(建設キャリアアップシステム)による能力評価と処遇の連動も、現場レベルでの浸透はまだ限定的です。
人材採用の現状と対策
中途求人は大幅に増加
建設業の中途採用求人数は増加傾向にあります。2024年4月の時間外労働上限規制開始を受け、各社が採用を急ピッチで進めた結果です。
出典: マイナビ転職「転職動向調査」(2024年)
有効求人倍率は高水準が継続
建設業の有効求人倍率は全産業平均を大きく上回る高水準が続いています。一部地域では特に深刻な人材不足状況となっており、人材の奪い合いが激化しています。
詳細な動向はデータで見る建設業の求人で確認できます。
人手不足感は71.3%で過去最高(2024年12月時点)
帝国データバンクの調査では、建設業の人手不足感は2024年12月時点で71.3%と過去最高を記録しています。特に鉄筋工、型枠大工、とび工の不足が深刻です。
出典: 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」(2024年12月公表)
経営者が知るべき採用で負けない賃金水準
⚠️ 以下の年収目安はあくまで参考値です。実際の賃金設定は地域・職種・就業形態・最低賃金・割増賃金規制・社会保険料等を踏まえ、社会保険労務士等の専門家と確認した上でご判断ください。
年代別の目安水準を把握する
人材確保で競合他社と戦うための年代別年収目安(参考値・地域・職種により異なります):
- 20代後半(経験3〜5年): 400万円前後
- 30代前半(技能2級程度): 480万円前後
- 30代後半(職長クラス): 550万円前後
- 40代(親方候補): 600万円前後
これらの水準を参考に、自社の給与体系と市場相場を比較することで採用競争力の把握につながります。
基本給と歩合のバランスが肝心
建設業の給与設計で失敗しがちなのは、出来高払いに偏りすぎることです。基本給と出来高を組み合わせる設計は、若手職人の安心感と熟練職人のモチベーション両方に配慮しやすい方法の一つです。完全歩合制は繁忙期の人件費変動には対応しやすいですが、安定性を重視する若手には敬遠されがちです。
福利厚生の「見える化」で差別化
年収以外での差別化要素:
- 社会保険完備(標準的な要件となった)
- 有給取得率の明示(年5日取得は法定最低ライン)
- 退職金制度(建退共加入など)
- 資格取得支援(費用負担・報奨金制度等)
これらを求人票に具体的に記載することで、同じ年収水準でも選ばれやすくなります。
2024年問題後の年収動向予測
時間外労働規制で実質年収減の可能性
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。残業代込みで年収を計算していた会社では、実質的な年収減につながる可能性があります。長時間残業に依存していた職人の場合、この分を基本給や各種手当でカバーできなければ、人材流出につながるリスクがあります。
週休2日制導入企業との格差拡大
国交省は2024年度から週休2日制確保に向けた取り組みを強化しています。週休2日を実現した企業が入札で有利になる仕組みも導入されています。年収水準を維持しながら週休2日制を導入するには、1日当たりの生産性を大幅に向上させる必要があり、DXツールの活用や工法改善が求められます。
特定技能外国人材の影響
建設業では特定技能1号の在留資格による外国人材受入れが拡大しています。ただし同制度では日本人と同等水準の賃金が求められるため、人手不足解消にはなっても人件費削減効果は限定的です。
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まとめ:データに基づく採用戦略の構築
建設業の年収は過去10年で大幅に改善し、全産業平均(賃金構造基本統計調査同条件)を上回る水準まで向上しました。しかし企業規模による格差は依然として大きく、中小建設会社は戦略的な処遇設計が不可欠です。
経営者が取るべき行動の例:
- 現在の給与水準の市場比較: 同地域・同職種の相場と自社の差を定量把握
- 年代別昇給カーブの見直し: 30代後半での年収水準を意識した目標設定
- 福利厚生の「見える化」: 建退共等の価値を年収換算で求人票に記載
- 2024年問題対応の収支計算: 残業代減少分の基本給転換計画策定
人材不足が常態化する中、データに基づかない感覚的な採用戦略では競争力を維持しにくくなります。自社の処遇水準を客観視し、戦略的な改善を進めることが生き残りの鍵になります。
よくある質問
Q1: 建設業の年収が全産業平均を上回る水準まで改善した要因は?
A1: 主な要因は3つあります。設計労務単価の連続上昇、人手不足による売り手市場化、そして建設投資額の増加です。特に東日本大震災復興需要と東京オリンピック関連工事が需要を押し上げました。
Q2: 中小建設会社が大手との年収格差を縮めるには?
A2: 完全に同水準にするのは困難ですが、福利厚生の充実と働き方改革で差別化は可能です。具体的には有給取得促進、資格取得支援の充実、地域密着による通勤時間短縮などが有効です。
Q3: 外国人材の活用で人件費は抑制できるか?
A3: 特定技能制度では同一労働同一賃金が原則のため、直接的な人件費削減効果は期待できません。むしろ受入れ費用を考慮すると、短期的にはコスト増となる場合があります。


