
この記事でわかること
2025年6月に閣議決定された第1次国土強靭化実施中期計画(計画期間:2026〜2030年度)では、推進が特に必要となる施策の事業規模がおおむね今後5年間で20兆円強程度とされています。この予算が建設業界に及ぼす影響を、インフラ老朽化データ・i-Construction 2.0の進捗・発注側の技術職員不足の観点から整理しました。
主要データ
- 2040年に道路橋の75%・港湾施設の68%が建設後50年超に到達(国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」調査)
- 国交省直轄土木工事のICT活用工事実施率は約87〜88%、2015年度比で平均約21%の作業時間短縮効果(国土交通省「i-Construction取組実績」)
- 技術職員ゼロの市区町村が存在し、発注側の品質管理に課題が生じている(国土交通省調査)
国土強靭化関連事業で建設業界に何が起きているか
建設業の就業者数はここ数年で一定の回復を見せています。一方、建設業の人手不足倒産は高水準が続いています。この矛盾の背景にあるのが国土強靭化政策の加速化です。2025年6月6日に閣議決定された第1次国土強靭化実施中期計画(2026〜2030年度)では、推進が特に必要となる施策の事業規模がおおむね今後5年間で約20兆円強程度と示されています(参照:内閣官房国土強靭化推進室「第1次国土強靭化実施中期計画概要」2025年6月)。建設業界は量的拡大の局面を迎えています。
ただし、この「約20兆円強」は計画対象326施策のうち推進が特に必要とされる施策に限った事業規模であり、全額が建設工事として直接業界に流れるわけではありません。資材・人件費高騰、入札不調、施工能力の制約といったリスク要因も並存しています。
また、発注者側の技術職員不足が深刻化しており、工事の品質管理体制に課題が見え始めています。
インフラの老朽化は待ったなしの状況です。2040年には道路橋の75%、港湾施設の68%が建設後50年を超えます(国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」調査、2023年公表値。建設年度不明施設を除く推計)。事後保全を続ければ将来的な維持管理費は大幅に増加します。予防保全に転換すれば長期的なコスト削減が見込めます。この転換点で建設業界がどう動くべきか、利用可能なデータと技術職員の配置状況から受注戦略を整理します。
⚠️ 本記事の施工情報は一般的な解説です。実際の施工は現場条件に応じた安全管理のもと行ってください。
インフラ老朽化の実態
国土交通省が公表する「建設後50年以上経過する社会資本の割合」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html)によると、2030年時点で道路橋の約54%が建設後50年以上を経過します。この比率は2040年には75%まで上昇し、港湾施設でも68%に達する見込みです(いずれも建設年度不明施設を除く推計)。
特に深刻なのが地方部の状況です。技術職員が少ない市区町村が多数を占めており、一部の団体では技術職員ゼロの状態にあります(国土交通省調査)。これらの自治体では橋梁点検すら外部委託に頼らざるを得ず、インフラ管理の空洞化が懸念されています。
国土交通省の試算では、事後保全を続けた場合と予防保全に転換した場合とで将来コストに大きな差が生じるとされています。この転換を担う維持管理工事の発注が今後増加する見通しです。
技術者不足の状況はデータで見る建設業の人材でも確認できます。
国土強靭化中期計画の予算規模と性格
2025年6月6日に閣議決定された第1次国土強靭化実施中期計画(計画期間:2026〜2030年度)では、326施策のうち推進が特に必要となる施策の事業規模がおおむね今後5年間で約20兆円強程度とされています(内閣官房国土強靭化推進室「第1次国土強靭化実施中期計画概要」2025年6月)。計画全体の予算総額ではなく、特定施策の事業規模である点に注意が必要です。
予算配分の方向性を見ると、新設工事よりも既存インフラの長寿命化工事の比重が高まっています。道路関係では舗装の打設から予防保全型の表面処理工法への転換が進行し、橋梁では部分的な補修・補強工事が増加しています。
港湾関係では岸壁の更新工事が本格化しており、重要港湾を中心に老朽化した岸壁の大規模改修が相次いでいます。専門性が高く対応できる業者が限られるため、単価上昇の要因にもなっています。
地方整備局別の詳細な発注件数・金額については、各整備局の入札情報サービスや国土交通省の発注見通し(各局公表)で確認することを推奨します。
i-Construction 2.0の生産性目標
i-Construction 2.0では2040年度までに省人化3割・生産性1.5倍を目標に掲げています。国土交通省の取組実績によると、対象となる直轄土木工事におけるICT活用工事の実施率は約87〜88%に達しており、2015年度比で平均約21%の作業時間短縮効果が確認されています(国土交通省「i-Construction取組実績」、https://www.mlit.go.jp/tec/content/001741647.pdf)。
ドローンによる測量では従来の作業と比べて大幅な時間短縮が可能になっています。3次元設計データを活用した施工では丁張り作業が大幅に簡素化されました。熟練技術者への依存度は低下する方向にあります。
一方、現場では「ICT機器の操作に慣れるまで時間がかかる」との声も多く、特に50代以上の職長クラスでは新技術への適応に課題があります。若手との技術格差が広がっている状況です。
自動化施工の実証実験も進んでおり、危険箇所での作業リスク軽減が確認されています。ただし導入コストが高く、中小規模の工事では採算が合わないケースも多いのが実情です。
最新の技術動向はデータで見るインフラ老朽化で詳しく分析されています。
技術職員不足が生む発注側の課題
発注者側の技術職員不足は深刻な状況にあります。国土交通省の調査では、技術職員が少ない市区町村が多数を占め、一部団体では技術職員ゼロの状態が報告されています。
この状況は工事の品質管理に影響を与えうるとされています。監督職員の不足により施工中の確認頻度の低下が懸念されており、特に専門性の高い橋梁補修工事では十分な品質管理体制の確保が課題となっています。ただし、品質管理上の具体的な不具合事例については公表された統計が限られており、自治体ごとに状況は異なります。
設計図書の不備も増加傾向にあるとされています。経験豊富な技術職員の退職により、現場条件を十分に反映した設計が困難になるケースがあり、工事着手後の設計変更・工期延長・追加費用の原因となっています。
適正な予定価格の設定が難しくなっている自治体もあり、市場実勢価格とのかい離による入札不調・不落につながっているケースもあります。
建設業界の受注機会と課題
国土強靭化関連予算の拡大は建設業界にとって受注機会の拡大を意味します。特に維持管理分野では長期的な需要が見込まれ、安定した受注基盤を構築できる可能性があります。ただし資材・人件費高騰、施工能力の制約、入札不調の増加といったリスクとのバランスを踏まえた判断が求められます。
橋梁補修工事では専門技術を持つ業者への発注が集中しています。PC橋の補修では張力導入やひび割れ注入などの特殊技能が必要で、対応できる業者は限定的です。この分野での技術蓄積は競争上の強みになります。
舗装工事では予防保全型の新工法が普及中です。従来のオーバーレイに代わり、薄層舗装や表面処理工法の需要が拡大しており、専用機械の設備投資判断が経営に影響します。
人手不足は深刻化しており、型枠工などの技能労働者の確保は困難な状況が続いています。データで見る建設業の求人では業種別の人材需給状況を詳しく分析しています。
特定技能の受入には一定のコストがかかりますが、技能実習からの移行により費用を抑えられるケースもあります。外国人材の活用は選択肢の一つとして検討する必要があります。
地域別の発注動向と留意点
地域別の発注状況には大きな差があります。東京都心部では再開発関連の大型工事が集中する一方、地方部では小規模な維持補修工事が中心です。
北陸地方整備局管内では積雪・雪害対策工事の需要が高い傾向にあります。近年の豪雪による道路施設損傷の復旧工事が続いており、除雪機械の操作技術を持つ作業員の確保が課題となっています。
九州地方整備局管内では台風・豪雨対策工事が引き続き重要な位置を占めています。河川の法面補強や砂防ダムの整備が進められており、災害復旧工事への対応力が問われます。
中国地方整備局管内では港湾施設の老朽化対策が急務とされています。瀬戸内海沿岸の港湾では岸壁の大規模改修が相次ぎ、専門工事業者への需要が高まっています。
各地域の具体的な発注件数・金額・工種内訳は、各地方整備局・開発局の公表する発注見通しや入札情報で確認することが、実務的な受注判断の基礎となります。
発注量の増加に対応するため、JV結成による共同受注も増えています。地方部では地元業者同士のJVにより技術力と施工能力を補完する動きが活発です。
収益性向上の戦略
国土強靭化関連工事での収益性向上には戦略的な取り組みが必要です。単純な価格競争では持続的な成長は見込めません。
技術特化による差別化が有効です。橋梁点検では赤外線サーモグラフィーやドローンを活用した診断技術の習得が競争力につながります。初期投資は必要ですが、一度習得すれば継続的な受注が期待できます。
予防保全工法の技術蓄積も求められます。事後保全から予防保全への転換により工事の性質が変わり、施工精度が一層問われるようになっています。技術力の差が工事成績に直結します。
地域密着による安定受注も有効な戦略です。自治体との信頼関係を構築し、維持管理工事の包括委託契約を獲得できれば、長期的な収益基盤となります。
施工データの蓄積と活用も競争力の源泉です。ICT施工で取得したデータを歩掛改善や品質向上につなげる取り組みは、次回工事の積算精度向上にも活用できます。
今後の建設業界への影響
国土強靭化政策は建設業界の構造変化を加速させています。「造る」から「維持する」への転換により、求められる技術と事業モデルが変わりつつあります。
維持管理工事では長期的な視点が必要です。単発の工事受注から、インフラの生涯にわたる管理・運営への参画が求められるようになっています。施工管理に加え、診断・計測・データ分析の技能が重要度を増しています。
地域建設業の役割もより重要になっています。地方自治体の技術職員不足を補完し、地域インフラの維持管理を担う存在として期待されており、新たな成長機会となりえます。
適正な対価での受注環境が整いつつあるなか、技術力向上と収益性確保の両立を図ることが求められます。
現場状況により異なります。安全管理は必ず関係法令に従ってください。
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まとめ
2025年6月閣議決定の第1次国土強靭化実施中期計画(2026〜2030年度)は、推進が特に必要な施策の事業規模をおおむね約20兆円強程度と示しています。この規模は計画対象施策の一部であり、全額が建設工事に直結するものではない点を踏まえた上で、受注戦略を組み立てることが求められます。
技術特化による差別化が有効です。橋梁診断技術・予防保全工法・ICT施工技術への投資を、自社規模・対応可能工種・地域特性に合わせて優先順位付けして進めることが実務的な判断につながります。2026年度以降の本格発注に備え、技術者育成と設備投資を同時並行で検討する余地があります。
地域密着戦略も有効です。自治体との信頼関係構築により、包括的な維持管理契約の獲得を目指すことは、単発工事より安定した収益基盤となりえます。
外国人材の活用計画も検討に値します。特定技能制度を活用した計画的な人材確保や、技能実習からの移行による受入コスト削減を具体的に検討することが求められます。
最新の発注データと技術動向はデータで見る建設コストで継続的に確認し、戦略の見直しを図ることが競争優位の維持につながります。


