
この記事でわかること
異形棒鋼は2021年1月比で54%上昇し、建設資材の中でも特に値上がりが激しい品目です。鉄スクラップの国際的な需給逼迫、電炉メーカーの電力コスト上昇、円安による輸入コスト増という3つの構造要因を整理し、RC造・S造それぞれへの影響差と、分割発注・先行契約・高強度鉄筋による調達実務の対策を解説しました。
主要データ
- 異形棒鋼は2021年1月比で54%上昇、建設資材全体(建築+36%、土木+27%)を大幅超過
- 鉄スクラップ(H2・東京地区)はコロナ前の約2倍となるトン4万円台で推移
- 生コンも同時期に69%上昇し、RC造の躯体コストはダブルパンチの状態
鉄筋価格推移の徹底分析|現場データで見る調達コスト実態
⚠️ 本記事の価格情報は参考値です。実際の取引価格は時期・地域・取引条件により異なります。
鉄筋の調達コストが経営を圧迫している――そんな声が建設業界で増えています。データで見る建設コストのダッシュボードでも確認できるとおり、建設資材価格は2021年以降、急激な上昇カーブを描いてきました。
本記事では、異形棒鋼を中心に鉄筋価格の推移を具体的な数値で整理します。なぜ上がったのか、構造別にどう影響が異なるのか、調達実務で何ができるのかを、公的データに基づいてまとめました。
鉄筋価格の推移|2020年以降の上昇トレンドを数値で確認する
鉄筋価格の上昇は、建設資材全体の値上がりの中でも特に激しい部類に入ります。
日本建設業連合会(日建連)が公表している「建設資材物価の動向」によると、異形棒鋼の価格は2021年1月を基準として2025年時点で約54%上昇しています(出典:日本建設業連合会「建設資材物価の動向」2025-2026年)。これは同期間の建設資材物価全体の上昇率(建築で+36%、土木で+27%)を大きく上回る水準です。
マクロ指標で見ても、建設総合デフレーター(2015年度基準=100)は2025年末時点で133.6に達しています(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」2025年12月速報値)。2015年度と比べて建設コスト全体が約34%上昇した計算です。鉄筋はその中でもさらに上振れしている資材ということになります。
時系列で見ると、上昇は一直線ではありません。2021年前半に急騰し、2022年半ばにいったん落ち着いたものの、2023年以降は再び上昇基調に転じています。原材料となる鉄スクラップ価格が国際的に高止まりしていることが背景にあります。
なぜ上がったか|鉄スクラップ・電力コスト・為替の3要因
要因1:鉄スクラップ価格の高騰
日本の鉄筋は、大半が電炉メーカーで製造されます。電炉の主原料は鉄スクラップです。つまり、鉄スクラップの価格が鉄筋の製造コストに直結します。
鉄スクラップ(H2グレード、東京地区)の価格は、2020年初頭のトン当たり2万円前後から、2022年には一時5万円を超える水準にまで急騰しました(出典:日本鉄源協会 鉄スクラップ市況)。その後やや落ち着いたものの、2025年時点でもトン当たり4万円台で推移しており、コロナ前の約2倍の水準が続いています。
背景には、世界的な脱炭素の流れがあります。高炉(鉄鉱石+コークス)から電炉(鉄スクラップ+電力)への転換が先進国で進んでおり、スクラップへの需要が構造的に増加しています。
要因2:電力コストの上昇
電炉は大量の電力を使います。2022年以降のエネルギー価格高騰は、電炉メーカーの製造コストを直撃しました。産業用電力料金は2021年比で30〜40%上昇した時期があり(出典:資源エネルギー庁「電力調査統計」)、その分が鉄筋価格に転嫁されています。
要因3:円安による輸入コスト増
鉄スクラップは国内発生分だけでは足りず、一部を輸入に頼っています。また、合金鉄(フェロマンガン、フェロシリコンなど)も輸入品です。2022年以降の円安(1ドル=110円台→150円台)は、これらの輸入コストを押し上げました。
日本鉄鋼連盟によると、2024年の粗鋼生産量は約8,700万トンです(出典:日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」2024年)。このうち電炉比率は約25%ですが、建設用鉄筋に限ればほぼ100%が電炉製品です。電炉メーカーの原価構造がそのまま鉄筋価格に反映されるため、上記3要因の影響は非常に大きいといえます。
構造別の影響差|RC造vsS造で何が違うか
鉄筋価格の上昇は、建物の構造によって影響度が異なります。
RC造(鉄筋コンクリート造)への影響
RC造では鉄筋が構造体の主要素です。一般的なRC造マンション(10階建て程度)の場合、鉄筋使用量はコンクリート1m³あたり100〜150kg程度になります。鉄筋価格が54%上昇すると、躯体工事費全体で10〜15%程度のコスト増要因になる計算です。
生コン価格も同時期に69%上昇しているため(出典:日本建設業連合会「建設資材物価の動向」2025-2026年)、RC造の躯体コストはダブルパンチの状態です。
S造(鉄骨造)への影響
S造でも基礎部分にはRC造が使われるため、鉄筋価格の影響をゼロにはできません。ただし、上部構造は鉄骨(H形鋼、角形鋼管など)がメインとなるため、影響は限定的です。
一方、鉄骨(形鋼)の価格も2021年1月比で40〜50%上昇しており(出典:日本建設業連合会「建設資材物価の動向」2025-2026年)、鉄鋼製品全般の値上がりという意味ではS造も同様の課題を抱えています。
影響の「見えにくさ」に注意
鉄筋価格の上昇は、建設工事費全体に占める割合が大きくないため見過ごされがちです。しかし、鉄筋は「量」が多い資材です。マンション1棟で数百トン単位の使用量になるため、トン単価の上昇が絶対額では大きなインパクトになります。実行予算の段階で、直近の市況を反映した単価で積算しているか確認が必要です。
調達の実務対策|分割発注・先行契約・代替材料
対策1:分割発注によるリスク分散
工期が半年以上ある現場では、鉄筋を一括発注するのではなく、工程に合わせて分割発注する方法があります。価格が上昇局面にある場合は早期発注が有利ですが、下落局面では後倒しが効果的です。分割発注により、価格変動リスクを時間的に分散できます。
ただし、分割発注には注意点もあります。ロットが小さくなるため単価が割高になる可能性、加工場の段取り替えによる加工費の増加、現場への搬入回数増による揚重コストの増加などです。価格変動リスクの低減効果と、これらの追加コストを天秤にかけて判断する必要があります。
対策2:先行契約(価格確定型)
上昇トレンドが明確な局面では、必要量を見込んで早期に価格を確定させる先行契約が有効です。鉄筋メーカーや鉄筋商社と3〜6か月先の納入分について価格を合意しておく方法です。
先行契約のリスクは、価格が下落した場合に割高な単価で調達することになる点です。また、必要量の見込み違いによる過不足も起こりえます。設計変更や工程変更に備えて、数量の調整条項を盛り込んでおくことが実務上は不可欠です。
対策3:高強度鉄筋による使用量削減
SD490など高強度鉄筋を採用することで、鉄筋の使用量を削減できる場合があります。同じ断面力に対して必要な鉄筋断面積が小さくなるため、材料費の削減につながります。
ただし、高強度鉄筋はSD345と比べてトン単価が高く、加工性も異なります。設計段階での検討が必要であり、施工途中での変更は現実的ではありません。新規案件の設計段階で、構造設計者と協議して検討する対策です。
失敗事例:発注遅延による工期圧迫
「もう少し待てば下がるだろう」と発注を先延ばしにした結果、鉄筋の納期が工程に間に合わなくなったケースは少なくありません。鉄筋は受注生産の側面があり、需要が集中する時期(年度末前の10〜12月など)は納期が1〜2か月に延びることがあります。価格の動向だけでなく、納期のリードタイムも含めて発注判断をする必要があります。
鉄筋価格の今後|構造的な上昇圧力は続く
鉄筋価格の今後を見通す上で、いくつかの構造的な要因を押さえておく必要があります。
まず、国内の建設需要です。インフラ老朽化対策(橋梁・トンネルの補修工事)、防災・減災のための国土強靭化事業、万博後の都市再開発など、コンクリート構造物の需要は中期的に底堅い見通しです。
次に、脱炭素の流れです。電炉シフトによるスクラップ需要の増加は世界的なトレンドであり、スクラップ価格の下落は期待しにくい状況です。
一方、建設業の人手不足による施工量の頭打ちが、需要面からの価格上昇圧力を緩和する可能性もあります。ただし、その場合は「量は減るが単価は下がらない」というシナリオが考えられ、建設会社にとっては厳しい環境が続くことに変わりありません。
よくある質問
Q1: 鉄筋価格の変動を事前に把握する方法はありますか?
日本鉄鋼連盟の月次統計、建設物価調査会の「建設物価」、日建連の資材物価動向レポートなどが代表的な情報源です。鉄スクラップ価格(H2グレード・東京地区)の動きが先行指標になるため、鉄スクラップ市況を週次でチェックしておくと、鉄筋価格の方向性をある程度予測できます。
Q2: 小規模工事でも価格交渉は可能ですか?
可能です。近隣の複数現場をまとめて発注する「共同調達」や、年間取引量をコミットする「フレーム契約」が有効です。地域の建設業協会を通じた共同購入制度を活用している例もあります。
Q3: スライド条項はどの程度有効ですか?
公共工事では「全体スライド」「単品スライド」「インフレスライド」の3種類が用意されています(出典:国土交通省「工事請負契約における設計変更ガイドライン」)。単品スライドは対象資材の価格変動が請負金額の1%を超えた場合に適用されるため、鉄筋価格が大幅に上昇した局面では活用できます。民間工事でも、契約時にスライド条項を盛り込んでおくことで、急激な価格変動のリスクを軽減できます。
実際の取引価格とは異なる場合があります。参考値としてご利用ください。
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まとめ
鉄筋(異形棒鋼)は2021年1月比で54%上昇し、建設資材の中でも特に値上がりが激しい品目です。鉄スクラップの国際的な需給逼迫、電力コストの上昇、円安の3要因が重なった結果であり、構造的な上昇圧力は当面続く見通しです。
RC造の現場では躯体コストへの影響が大きく、実行予算の策定時に直近の市況を反映した積算が欠かせません。調達面では、分割発注・先行契約・高強度鉄筋の検討といった対策を、工期やロットに応じて使い分けることが求められます。
最新の建設コスト動向はデータで見る建設コストで随時更新しています。また、建設コスト全体の構造については建設工事費デフレーター130超でも利益が出ない理由も併せてご確認ください。


