
この記事でわかること
建設工事費デフレーター(建設総合、2015年度=100)は2026年1月時点で133.3に達し、2015年度比で建設コストが約33%上昇しました(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」e-Stat、2026年4月公表分まで反映)。にもかかわらず建設業の完成工事高営業利益率は2.5%前後で横ばいのままです(出典:国交省「建設業の経営分析」対象年度・企業規模は同資料参照)。資材費と人件費の「ダブルパンチ」が進む中、名目受注額の増加が実質ベースでは横ばいという構造が、利益が出ない根本原因です。この記事ではデフレーターの読み方から、個別資材の動向、スライド条項の活用法まで、積算・見積もり実務に直結する情報を整理しています。
主要データ
- 建設総合デフレーター: 133.3(2026年1月月次値、2015年度=100、出典:国土交通省)
- セメント企業物価指数: 166.2(2026年2月、2020年平均=100、出典:日本銀行「企業物価指数・品目別」)
- 小形棒鋼(鉄筋): 149.4(2026年2月、同上)
- 設計労務単価: 25,834円/日(2026年3月適用、全職種加重平均、加重平均ベース前年度比+3.9%、単純平均ベース+4.5%、出典:国交省)
- 建設業完成工事高営業利益率: 約2.5%(横ばい、出典:国交省「建設業の経営分析」)
建設工事費デフレーター(建設総合、月次値)は2026年1月時点で133.3まで上昇しています(直近では2025年12月133.2、2026年1月133.3。出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」e-Stat、2026年4月公表分まで反映)。年度次平均で見ると2024年度は128.97(同統計)、2025年度は2025年4月〜2026年1月の10か月平均で約132.0です(年度確定値ではなく中間値)。2015年度を100とすると、約10年で建設コストが33%上昇した計算になります。ところが、国交省「建設業の経営分析」によると建設業の完成工事高営業利益率は平均2.5%前後で横ばいのままです。コストが3割以上上がっているのに、利益率が改善しない。この矛盾の正体を、デフレーターの構造から読み解きます。
データで見る建設コストのダッシュボードで最新のデフレーター推移を確認できます。
建設工事費デフレーターとは何か
建設工事費デフレーターは、国交省が毎月公表する建設工事のコスト変動を示す指数です。基準年(2015年度=100)に対して、資材費・労務費・機械経費・仮設費を加重平均して算出されます。
ポイントは「名目の建設投資額」を「実質の建設投資額」に変換するために使う点にあります。例えば、2023年度の建設投資額が70兆円でも、デフレーター(年度次平均123.48)で割ると実質は約57兆円。実際の工事量は見かけほど増えていません。
現場で積算をやっている人間なら、この感覚はわかるのではないでしょうか。発注金額は上がっているのに、粗利が変わらない。その定量的な裏付けがデフレーターにあります。
デフレーターの構成要素
デフレーターは3つの要素から構成されます。
- 資材費: セメント、鉄筋、木材、生コン、アスファルト等の価格変動
- 労務費: 各職種の設計労務単価の変動
- 機械経費: 建設機械のリース・燃料費の変動
それぞれの構成比は工事種類によって異なります。土木工事では機械経費の比率が高く、建築工事では労務費の比率が高い。この違いがデフレーターの「加重平均の罠」を生みます。自社が手がける工事の構造別にデフレーターを読み分けることが、積算精度の第一歩です。
建築工事費デフレーターとの違い
「建設工事費デフレーター」と「建築工事費デフレーター」は別の指数です。
- 建設工事費デフレーター: 土木+建築の全建設工事が対象
- 建築工事費デフレーター: 建築工事のみが対象(住宅・非住宅で細分化あり)
住宅を主力とする工務店なら建築工事費デフレーターの方が実態に近くなります。一方、公共土木を手がける建設会社は建設工事費デフレーター全体を見るべきです。国交省のサイトで両方確認できます。
デフレーターの推移:2015年度からの10年間で何が起きたか
【グラフ: 建設工事費デフレーター(建設総合)の推移(年度次平均)】
2015年度を100として、各年度次平均の推移を見ます(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」e-Stat、2026年4月公表分まで反映)。
- 2015-2019年度: 100→108前後。年1〜2%の緩やかな上昇
- 2020年度: 107.96。コロナ禍で一時的に上昇が鈍化
- 2021年度: 113.27(年度次平均)。ウッドショックで木材価格が急騰し、一気に加速
- 2022年度: 120.30(年度次平均)。ロシア・ウクライナ紛争で鋼材・エネルギー価格が高騰
- 2023年度: 123.48(年度次平均)。円安(1ドル=150円前後)が輸入建材を直撃
- 2024年度: 128.97(年度次平均)
- 2025年度(途中): 2025年4月〜2026年1月の月次平均で約132.0、月次最新値は2026年1月133.3
2015年度から2026年1月にかけて約33ポイント上昇。この期間の上昇率は同期間の消費者物価指数の年平均上昇率を大きく上回ります。建設業のコストインフレは、他産業と比較しても突出しています。なお、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2024年)の分析では、直近のデフレーター上昇率は年約4.4%に達しており、特に電線・ケーブルの急騰が顕著と指摘されています。
2021年のウッドショックが転換点
2021年度の年度次平均デフレーター(113.27)は前年度比で大きく上昇し、ウッドショックが引き金でした。北米の住宅需要急増と中国の木材買い占めで、日本への輸入木材が減少。スギ正角材は立米4万5,000円から8万円超へ一時的に倍増しました。
木材価格が落ち着いた2023年以降もデフレーターの上昇が続いている点が重要です。木材は下落に転じたものの、鋼材とセメントの高止まり、そして設計労務単価の14年連続上昇がデフレーターを押し上げ続けています。建設資材物価は2021年1月比で全体約38%、土木28〜32%、建築25〜29%上昇しており(日本建設業連合会、2025年12月/2026年1月公表)、コスト上昇は一過性ではなく構造的です。
長期トレンド:1990年代からの30年間
さらに長い期間で見ると、建設工事費デフレーターは1990年代後半から2010年代前半まで横ばい〜緩やかな下落トレンドでした(デフレ期)。2013年頃に底を打ち、そこから上昇に転じています(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」年度次系列、2015年度=100)。
- 1997年度: 約92
- 2013年度: 約97(デフレ期の底値圏)
- 2023年度: 123.48(年度次平均)
2013年から2023年度にかけて約28%の上昇です。2013年に1億円だった工事は、2023年度の年度次平均水準では1億2,800万円程度かかる計算になります。この感覚を持っていないと、過去の実績ベースで見積もりを出した時に必ず赤字になります。
個別資材とデフレーターの乖離:木材・セメント・鋼材で全く違う動き
デフレーターは加重平均値であり、資材ごとの動きは大きく異なります。デフレーター全体だけ見ていると、個別資材の価格変動を見逃します。
木材:ウッドショック後の調整局面
(出典:日本銀行「企業物価指数・品目別」日銀統計、2026年4月7日更新)
- 製材(企業物価指数): 136.6(2026年2月、2020年平均=100)
- 木材関連の他品目(合板・集成材ほか)も2020年比で3割超の水準を維持(合板・集成材の個別系列値は日銀「企業物価指数・品目別」公表ページを参照)
- ウッドショック前(2020年平均=100)から3割超の水準で推移
- 2022年のピークから下落し調整局面が続いているが、2026年2月時点でも高水準を維持
- 円安で輸入木材コストが高止まりしており、国産材との価格差が縮小
国産材シフトが進む余地があります。木造住宅を手がける工務店にとっては、国産材の調達ルート確保が価格安定化の手段になります。
セメント:需要減でも価格は下がらない
(出典:日本銀行「企業物価指数・品目別」日銀統計、2026年4月7日更新)
- セメント企業物価指数: 166.2(2026年2月、2020年平均=100)
- 国内出荷量は近年減少傾向が続いている(日本セメント協会)
セメントは需要が減少しているのに、価格は上がり続けています。電力コスト(セメント製造は大量の電力を使う)と石炭価格の高騰が原因です。需要減=価格下落という常識が通用しません。
鋼材:高止まりと回復見通し
(出典:日本銀行「企業物価指数・品目別」日銀統計、2026年4月7日更新)
- 小形棒鋼(鉄筋)企業物価指数: 149.4(2026年2月、2020年平均=100)
- 2025年末から2026年2月にかけて149前後で高止まり
鋼材はRC造・S造の躯体に直結するため、非住宅建築(データセンター・物流施設)の需要が強い状況です。中国の鉄鋼過剰生産が国際価格を不安定にしており、今後の動向に注意が必要です。
生コンクリート:高水準が続く
(出典:日本銀行「企業物価指数・品目別」日銀統計、2026年4月7日更新)
- 生コンクリート企業物価指数: 156.5(2026年2月、2020年平均=100)
- 2025年後半から156前後で推移し、上昇トレンドが継続
RC造の減少と住宅着工件数の低迷が直撃している一方、資材コストは下がっていません。生コン工場の統廃合が進んでおり、地方では「最寄りのプラントまで30km」という状況も出始めています。運搬距離の増加は、ミキサー車の90分制約(練り混ぜから打設まで)を考えると、工程計画に直接影響します。
設計労務単価の14年連続上昇
2026年3月適用の公共工事設計労務単価は、全職種加重平均で25,834円/日(加重平均ベースで前年度比+3.9%、単純平均ベースで+4.5%)。14年連続の引き上げです(出典:国土交通省、2026年公表)。2012年(平成24年)比で見ると、加重平均ベースで約+97%、単純平均ベースで約+94%の上昇となっており、賃上げの流れが継続していることがわかります。
職種別の単価差
設計労務単価は職種によって大きな差があります(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価」全国全職種、2026年)。
- 鉄筋工: 31,267円(前年度比+4.6%)
- 特殊作業員: 28,111円(前年度比+4.3%)
- 普通作業員: 23,605円(前年度比+3.0%)
- 軽作業員: 18,605円(前年度比+2.9%)
鉄筋工と軽作業員で1.7倍近い差があります。熟練工の確保が困難な職種ほど単価上昇率が高く、この傾向は今後も続きます。職種別の詳細は設計労務単価2026年3月適用の解説記事を参照してください。
地域別の格差
設計労務単価は地域差も大きい傾向があります。同じ仕様書でも、施工場所で原価が大きく変わります。福岡市のRC造現場では型枠工の実勢日当が3万円を超える事例が報告されており、設計単価との乖離が指摘されています。この「設計単価と実勢単価の乖離」が、公共工事の入札不調の一因でもあります(不調率は国交省・各発注機関の統計を参照)。地域別・職種別の最新単価は国土交通省 公表ページで確認可能です。
建築費指数との関係:構造別で全く違うトレンド
建設物価調査会が公表する建築費指数は、デフレーターの「加重平均の罠」を補完する重要な指数です。RC造・S造・木造で構造別に上昇率が異なるため、自社が手がける工事の構造別に指数を使い分けることが積算精度の向上につながります。最新の構造別指数値および前年比は、建設物価調査会「建築費指数」公表ページで確認可能です。
傾向としては、ウッドショック後の木材価格調整により木造の上昇率が相対的に低く、鋼材とセメントの高止まりが直撃するRC造・S造の上昇率が高い構造が続いています。デフレーター全体では130台でも、構造によって体感コストの上昇幅は異なるため、単一指数だけで判断しないことが重要です。
積算・見積もりでの実務活用法
デフレーターと個別資材価格を組み合わせた実務活用法を整理します。
見積もり更新のタイミング
- デフレーターが前月比で1ポイント以上変動した月は、進行中の見積もりを再チェックする
- 国交省の発表は毎月。データで見る建設コストのダッシュボードで速報値を確認できる
- 着工から竣工まで1年以上かかる工事では、見積もり時点と施工時点のデフレーター差を考慮に入れること
スライド条項の活用
公共工事では、資材価格の急変に対応する「スライド条項」(単品スライド・インフレスライド)が適用可能です。
- 単品スライド: 特定の主要資材について、変動額が請負代金額等に対して一定割合を超えた場合に契約変更の対象となる(適用要件は契約書・特記仕様書・発注機関の運用基準による)
- インフレスライド: 残工事費の1%を超える物価変動が生じた場合に適用
- 2022年以降、国交省は適用を積極的に促している
申請のタイミングは各資材の価格変動が契約条件で定める閾値を超えた時点です。デフレーターの月次変動がシグナルになります。適用可否は発注者・契約条項・対象資材・残工期・証憑等によって異なるため、契約書の条件を事前に確認し、発注者と協議することを推奨します。
民間工事での交渉材料
民間工事にはスライド条項がない場合が多くなっています。ただし、交渉の根拠としてデフレーターは有効です。
- 元請との価格交渉で「デフレーター2015年度比33%増」を根拠に使える
- 設計労務単価の公表値を提示し、「公共工事単価ですらこの水準」と示すのが効果的
- 見積もり書に「本見積もりは○年○月時点のデフレーター値に基づく。着工時に再確定」と明記することで、価格変動リスクを契約段階で共有する
資材別のヘッジ戦略
デフレーターの内訳を見れば、どの資材のリスクが高いかがわかります。
- 木材: ウッドショック後の調整局面だが依然2020年比3割超の水準。在庫リスクは低下傾向
- 鋼材: 高止まり。長期契約で価格を固定する交渉が有効
- セメント・生コン: 需要減でも価格は上昇傾向。代替策が限られる
- 燃料(軽油): 円安と原油価格に連動。機械経費の変動要因
2026年度の見通し:コスト上昇は続くのか
デフレーターの上昇トレンドが反転する材料は現時点では乏しい状況です(2026年4月時点、編集部の足元データに基づく見立て)。
- 円安は構造的(日米金利差)。輸入建材の価格圧力は継続
- 設計労務単価は14年連続上昇中。建設技能労働者の有効求人倍率は高止まりが続いており、解消する見込みは近い将来にない
- 国土強靭化中期計画(2026-2030年度、5年で20兆円強)がスタート。公共工事の発注増加が資材需要を押し上げる見通し
- 住宅着工件数は減少傾向(国土交通省「建築着工統計調査」参照)。需要減がコストを抑える方向に働く可能性があるが、非住宅(データセンター・物流施設)の需要が補っている
年度次平均の推移(FY2024=128.97、FY2025途中=約132.0)と直近の月次値(2026年1月=133.3)を踏まえると、2026年度のデフレーターは132〜136程度の水準で推移すると想定されます(編集部試算、足元データに基づく便宜的な見通し)。年2〜3%のコスト上昇を前提とした経営計画が求められます。コスト上昇を価格転嫁できない企業から順に経営が厳しくなる局面であり、特に中小建設業では赤字転落リスクへの備えが急務です。
まとめ:デフレーターを経営判断に翻訳する
- デフレーター(建設総合)は2024年度128.97(年度次平均)、2025年度途中で約132.0、2026年1月月次値133.3(2015年度=100)と上昇を続けており、2015年度比で約30%以上のコスト増を意味します。完成工事高営業利益率2.5%前後の建設業にとって、見積もり精度の1%のズレが致命傷になります
- 全体指数だけでなく、構造別(RC/S/木造)と資材別(木材/セメント/鋼材/生コン)のトレンドを把握する必要があります
- 設計労務単価は職種別・地域別ともに差が大きく、見積もりへの反映を確認することが必要です
- 見積もりの更新頻度は月次発表に合わせて確認することを推奨します。データで見る建設コストのダッシュボードで最新データを確認できます
- スライド条項は適用可否が契約条件・発注者・残工期等によって異なります。申請条件と手続きを事前に発注者と確認し、タイミングを逃さないことが求められます
- 見積もり書に「価格変動条項」を明記し、着工時に価格を再確定するルールを標準化することを検討してください
- 2026年度はデフレーター132〜136を前提に経営計画を立てることが求められます(2026年4月時点、編集部試算)












