
この記事でわかること
2026年2月末の米・イスラエル対イラン軍事作戦(Operation Epic Fury)を起点に、ホルムズ海峡の通航制限が続いています。建設業界では石油化学系の建材が3月以降に急騰し、断熱材40%、塗料シンナー75%、ユニットバスの一時受注停止など2026年3〜6月実施分で26件の価格改定・供給停止が発生しています。住宅元請の工務店は在庫・契約・見積・工程・資金繰りの5点で即応が必要な局面です(非住宅・土木の実務者も基本構造は同じため、応用可能なポイントを随所に補足しています)。
主要データ
- WTI原油 94ドル/bbl(2026年4月月次、2025年後半の60ドル前後から約1.5倍、出典:米EIA・Bloomberg集計)
- ナフサスポット 13.4万円/kL(2026年4月、2025年5月の底値53,800円の約2.5倍、出典:日本石油化学工業協会・ゴムタイムス)
- 建材・住設の値上げ・受注停止 26件(2026年3〜6月実施分、各社公式リリース・日経・業界媒体集計)
ホルムズ海峡情勢で原油・ナフサ・LNGが同時に急騰
事の発端は2026年2月28日に米軍が発動したOperation Epic Fury(イスラエル側呼称はRoaring Lion)です。ホルムズ海峡は3月以降、通航制限と一時開放・再封鎖を繰り返しており、4月13日に米CENTCOMが海上封鎖を発動、17日にイランが一時開放宣言、18日に再封鎖通告という膠着状態が続いています。
WTI原油は2025年後半の60ドル前後から、2026年3月に99ドル台まで急騰し、4月下旬は94ドル前後で推移しています。Brentも同様に3月に105ドル、4月に99ドル前後まで跳ね上がり、平時の70ドル台から約1.3〜1.5倍の水準で推移しています。
建設業にとってより重いのは原油そのものではなくナフサです。ナフサのスポット価格は2025年を通して1キロリットル5〜6万円台で変動していました(2025年5月に底の53,800円、6月に64,500円への戻しなど)。流れが変わったのは2026年3月で、前月比+44%の98,400円に跳ね上がり、4月初旬には134,000円まで追加で上昇しました。2025年5月の底値と比べて約2.5倍、直前の2026年1月比でも2倍超の水準です。
電気・ガス経由では、JKM(Japan Korea Marker)LNGスポット価格が2026年3月に一時25ドル/MMBtuに到達しました。平時の10〜12ドル台の2倍超です。4月は政府の需給対策もあり15ドル台まで戻しましたが、依然として平時の1.5倍水準。セメント・ガラス・石膏ボード・鉄鋼などの製造コストに、電気料金経由で波及します。
ナフサがなぜ建材・ユニットバスに直撃するのか
「ナフサが上がると建材が上がる」と聞いても、どの建材に・どの経路で影響するのか、すぐには結びつきにくいかもしれません。ナフサは原油から精製される石油化学の基礎原料で、エチレン・プロピレン・ベンゼンといった基礎化学品の出発点になります。そこから樹脂・接着剤・溶剤・合成繊維などが作られ、建設現場で使う大量の素材にたどり着きます。
住宅・非住宅の建築で直接影響を受けるのは、以下の品目群です。
- 断熱材:押出法ポリスチレンフォーム(XPS)、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォームはいずれもナフサ起点。吹付け断熱の原液も同様
- 樹脂配管:給水・給湯・排水・電気配管に使う塩ビ管(VP・HT)、ポリエチレン管、架橋ポリエチレン管
- 塗料・シンナー・接着剤・シーリング:溶剤系・水性を問わず樹脂主体、シンナーはナフサ派生
- 防水・ルーフィング:アスファルト系防水材、改質アスファルトルーフィング、RBボード
- 石膏ボード:本体の主原料は石膏だが、結合材・表面紙・副資材に石油化学製品が使われ、加工費も上昇
- ユニットバス・システムキッチン・トイレユニット:FRPや樹脂成形部品に加え、フィルム接着剤・コーティング溶剤が不可欠
住設機器で4月に一斉受注停止が起きた構造は象徴的です。TOTOのユニットバスが止まった理由は、本体樹脂の不足ではなく「壁・天井のフィルム接着剤やコーティング剤に含まれる有機溶剤」が確保できなかったためです。数千円〜数万円規模の副資材が1点欠けるだけで、数百万円の住設機器が出荷できなくなります。サプライチェーンの脆弱性が露呈した形です。
木材は直接ナフサから作られる素材ではないため一次的影響は小さいですが、集成材・合板に使う接着剤、プレカット工場の塗装、海運のバンカー燃料経由で二次的にコスト上昇を受けます。土木の分野でも、塩ビ管・防水材・塗装・接着剤は全面的に使われるため影響は避けられません。ウッドショック(2021年)が木材1品目の話だったのに対し、今回のナフサショックは断熱・配管・塗料・防水・住設・床材の全域に波及するのが特徴です。
石油化学系建材は40%値上げ、ユニットバスは受注停止が連鎖
ナフサの急騰は4月に入ってから建材・住設の値上げ・供給停止として顕在化しました。主な動きは以下の通りです。
断熱材では、カネカ(カネライトフォーム)、デュポン・スタイロ(スタイロフォーム)、JSP(ミラフォーム)の押出法ポリスチレンフォーム主要3社が揃って40%値上げを公表しました。旭化成建材(ネオマフォーム・ネオマゼウス)は4月1日出荷分から10〜15%、5月7日から追加で約20%の特別調整金を載せており、ネオマゼウスは生産停止に入りました。アキレス(硬質ウレタンボード)も5月1日出荷分から40%値上げに加えて出荷制限を実施しています。
塗料分野では、日本ペイントが建築用シンナーを3月19日発注分から75%値上げした直後、4月16日出荷分から塗料本体を10〜20%、シンナーを追加で15〜25%引き上げると発表しました。エスケー化研はシンナーを80%値上げしており、日本ペイントを上回る過去最大級の改定になっています。
屋根下葺材の田島ルーフィングは4月1日にアスファルト系防水材料・断熱材を40〜50%値上げすると発表した後、4月10日17時30分をもって防水・住宅建材の新規受注を全面停止しました。日新工業もアスファルトルーフィングを40%値上げと同時に受注停止を発表しています。鋼材分野の東京製鐵は3月16日にH形鋼・異形棒鋼・厚板を+5,000円/トン、ホットコイル・熱延鋼板類を+7,000円/トン値上げした後、4月・5月と2ヶ月連続で追加改定を実施しました。石膏ボードの吉野石膏は6月1日から本体+20%・加工費+40%。波及はサッシや塩ビ管にも及んでおり、LIXILのサッシは4〜5月に住宅サッシ10%・セレクトサッシ15%・天窓20%、信越化学工業の塩ビ樹脂は4月と5月の2段階で通算40%相当、積水化学工業の塩ビ管は12〜20%の値上げが実施されます。
4月に供給停止・納期未定化を発表した主な会社
会社 | 品目 | 発表日 | 状態 |
|---|---|---|---|
TOTO | ユニットバス・トイレユニット | 4/13 | 新規受注停止 → 4/20再開 |
LIXIL | ユニットバス | 4/14 | 納期未定化 → 4/22通常化 |
クリナップ | システムバス | 4/14 | 新規受注停止 |
パナソニックハウジングソリューションズ | バス・トイレ | 4/14 | 納期未定化 |
田島ルーフィング | 防水・住宅建材(床材除く) | 4/10 | 新規受注停止(再開未定) |
日新工業 | アスファルトルーフィング | 4/2 | 値上げ+受注停止 |
旭化成建材 | ネオマゼウス | 4/14 | 生産停止 |
アキレス | 硬質ウレタンボード | 4/10 | 値上げ+出荷制限 |
※ 出典:各社公式リリース・日本経済新聞・新建ハウジング・リフォーム補助金ナビ等(2026年4月24日時点)。完全な26件一覧は 中東情勢ダッシュボード で確認できます。
CGPI建設資材はまだ静か。数字が表に出るのはこれから
日本銀行の企業物価指数(CGPI、2020年=100)で建設資材の代表品目を見ると、2026年2月時点で生コンクリート156.5、セメント166.2、小形棒鋼149.4、製材136.6、合板・集成材133.8です。これはナフサショックが反映される前の水準で、4〜6月の統計更新でどの程度切り上がるかが次の注目点になります。
メーカーの値上げリリース(先行指標)と原油・ナフサ指標(速報指標)が先に動き、CGPIが確定値として追随するという流れです。4月の通関統計でまず通関価格が動き、5〜6月のCGPIで建設資材の実勢価格が動く順番になると見られます。
工務店が今週動くべき5つの備え
① 仕様を早期確定し、全納期回答を揃えてから着工する(見切り発車は致命的)
いま発注しても納期回答が7〜8月以降という品目が出始めています。仮に戦争が近日中に収束しても、工場・商社には既に滞留した注文が積み上がっており、「列の後ろから並び直す」時間が加わります。新規の住宅着工・改修工事・小規模非住宅案件では、まず施主・発注者と仕様を早期に確定させ、断熱材・サッシ・住設機器・防水・塗料・配管まで一括で発注をかけ、全品目の納期回答を取り寄せた上で工程を組んでください。
最も危険なのは「前工程の資材が揃ったから着工する」という見切り発車です。構造材だけ揃ったので上棟GOした結果、ルーフィング・防湿シート・断熱材が間に合わず、上棟後に雨仕舞ができないまま数週間放置、構造材を濡らして含水率超過で補修、というケースが2021年のウッドショック時にも散発しました。今回のナフサショックは対象品目が多く、1つ欠けるだけで中断するリスクが高まります。全工程を組み上げてからGOサインを出す規律が、今回は特に効きます。公共工事・土木の場合は発注者と協議して工期延伸の合意をとる段取りが現実的です。
② 在庫確保は「抱えすぎ」もリスク。案件ベースでロックする
供給逼迫下では在庫が安全網になります。ただし、在庫を抱えすぎれば運転資金を圧迫し、情勢が落ち着いたときに陳腐化・値下がりで損失を出す可能性があります。倉庫スペースの確保コストも考えると、倉庫建ての投機的在庫ではなく、受注済み案件に紐づけた先行発注で供給をロックする方針が基本です。メーカーによっては「実績ベース」の受注制限を導入しており、普段発注していない品目を急に大量発注しても受けてもらえないケースが出ています。既存取引関係の太さが調達力に直結する局面なので、取引の薄い商社・メーカーがあるなら日頃の発注量を戻す動きも並行しておくのが現実的です。
③ スライド条項は契約書への明記+契約前の施主・発注者への納得説明をセットで
改正建設業法・入契法(令和6年法律第49号)では、資材高騰時の請負代金等の変更方法を契約書の法定記載事項として明記することが2024年12月13日に施行されました。改正建設業法は2025年12月12日に全面施行されています。民間(七会)連合協定工事請負契約約款も2025年12月に改正され、「主要な資材の供給の著しい減少その他の工期に影響を及ぼす事象」「資材の価格の高騰その他の請負代金額に影響を及ぼす事象」が発生した際の工期・代金変更請求規定が追加されました。公共工事では単品スライド方式(対象工事費の1%超変動で代金変更)が従来から用意されています。
ただし、契約書に条項を入れるだけでは現場でのトラブル回避には不十分です。契約書に「書いてあるから」と事後に変更交渉を持ち出すと、施主・発注者は「聞いていない」「納得していない」と反発します。契約前(見積段階〜契約合意の直前)に、資材高騰リスクが現実化した場合に変動しうる幅・再協議の発動条件・代金変更の算定方法を具体的数字で説明し、施主・発注者の納得を取っておくことが、失注リスクを最小化しつつ、着工後のトラブルを防ぐ決定的な要因になります。非住宅・土木でも発注者とのコミュニケーション設計は同じ構造です。
④ 工期長期化による金融リスクに備える(施主・発注者・自社の3方向)
工期が伸びると、価格だけでなくキャッシュフローに影響が出ます。建設業のどの立ち位置でも、3方向の備えが必要です。
施主・発注者側:住宅新築ならつなぎ融資の金利負担が工期延長分だけ増えます。住宅金融支援機構が公表する2026年4月のフラット35最頻金利は2.49%に上昇しており、仮定計算として年利2.5%・1,000万円実行で半年延びれば追加金利は約12.5万円(1,000万×0.025×0.5)。引越・賃貸家賃の後ろ倒しも含めれば負担はさらに増えます。住宅ローン実行タイミング・ボーナス併用返済の組み直しも必要。法人発注者なら完工・引渡時期のずれが売上計上・資金計画に影響します。見積提示と同時に「工期が延びた場合の金銭的影響」もシミュレーションで見せておくと、スライド条項の理解が深まります。
自社側:工期長期化は現場経費・リース・人件費・仮設・保険の継続コストとして直撃します。月次で何ヶ月持つかを資金繰り表で確認し、メインバンクに事前相談して当座貸越枠や運転資金の借入枠を確保しておくこと。帝国データバンクによれば2025年の建設業倒産は2,021件と過去10年で最多、東京商工リサーチの集計では建設業の休廃業・解散が初の1万件超となりました。資金ショートは工期延長が引き金になるケースが相当数あります。
下請・専門工事会社側:元請からの支払サイト長期化、現場待機による稼働率低下に備えて、月次の資金繰り見通しを前倒しで作成しておくのが有効です。元請との協定に「現場再開時の先順位」を入れ込むことも検討材料です。
⑤ 見積は悪化シナリオを織り込んだ複数パターンで出す
単一の見積+スライド条項だけで契約すると、情勢が悪化したときに「こんなに上がるとは聞いていない」という感情的な紛糾に発展しがちです。ベース(現状水準維持)/悪化(ナフサがさらに上昇した仮定)/最悪(長期高止まりの仮定)の3シナリオを想定し、それぞれの総工費レンジを先に提示する方法が有効です。施主・発注者と「どのシナリオならGO/どこで立ち止まるか」を一緒に決めておけば、想定外の紛争を避けやすくなります。見積有効期限を従来より短い幅(1ヶ月単位など)に見直す運用も実務上の選択肢です。
同時に、ZEH補助金・先進的窓リノベ事業・給湯省エネ2026などの補助金情報も案内すれば、値上げ分を補助金で相殺できる案件が一定数出てきます。単なる価格交渉ではなく、省エネ性能×補助金×長期コスト回収の構造的な話に置き換えることで、受注を守りながら価格転嫁を実現できます。
モニタリングすべき指標
情勢は日々動きます。以下の指標を毎週〜毎月チェックする体制を整えておくのが現実的です。
- WTI・Brent原油価格(Bloomberg・Reuters等、日次):$95→$130超で警戒水準
- 日本着ナフサスポット価格(石油化学新聞・ゴムタイムス、週次):現在13万円/kL台
- JKM LNGスポット(日本経済新聞等、週次):現在15ドル/MMBtu前後、25ドル超で再警戒
- 日銀CGPI建設資材(日本銀行、月次):4〜6月の反映を要注視
- 各社値上げ・受注停止リリース:中東情勢ダッシュボードのトラッカーで随時更新
まとめ:早く動ける会社が有利に立つ
2026年の中東情勢は「単なる原油高」ではありません。ナフサを起点とする石油化学系建材の構造的な供給・価格ショックが、海運・保険料上昇と電力コスト転嫁を伴って多層的に建設業に影響を及ぼしています。
建材を仕入れられる会社と仕入れられない会社、工程を組み切れる会社と見切り発車する会社、契約前に納得を取れる会社と事後で揉める会社の差が、2026年下半期の受注・粗利に効いてくる局面です。工事1件の失敗事例は、仕様確定・納期回答・工程組・着工判断のどこか1つの抜けから生まれます。価格転嫁の仕組み化、供給網の複線化、金融リスクの予防を短期で実装できるかが、業態ごとの影響の出方を左右する要因になります。
指標と値上げ動向は 中東情勢ダッシュボード で継続更新しています。自社の調達・契約・見積・工程・資金繰りを、この週末までに一度棚卸ししておくと効きます。
※ 情勢・価格・制度運用は短期で変動するため、契約判断は最新の公表資料・公式リリースをご確認のうえ進めてください。


