
この記事でわかること
2025年の職場の熱中症は全産業で死傷1,803人と統計開始以降で最多になりました。一方で死亡は19人と前年の31人から減っています。建設業は死傷者数では全体の2割弱にとどまるのに、死亡者数では約4割を占めます。この記事では、その「死傷は少なめ・死亡は突出」というねじれが何を意味するのか、2025年6月に施行された改正労働安全衛生規則で元請・下請のそれぞれに何が義務づけられたのか、そして国交省が工期と経費の両面で動かし始めた制度をどう受注条件の交渉に使うかを整理します。
主要データ
- 2025年の職場の熱中症は全産業で死傷1,803人・死亡19人。死傷は2005年の統計開始以降で最多、前年比+43.4%(厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」2026年5月27日公表・確定値)
- 建設業は死傷292人で製造業365人に次ぐ2位。一方、死亡は5人で業種別1位(同)
- 2021〜2025年の5年累計では、建設業は死傷の18.7%に対し死亡の39.7%を占める。ただし建設業の死亡者数自体は2022年の14人から2025年の5人へ減少している(同)
- 2025年の死亡19件のうち、労働衛生教育の実施が確認できなかった事例が9件、発症時・緊急時の報告体制の整備・周知が確認できなかった事例が2件(同)
- 2025年6月1日、労働安全衛生規則第612条の2が施行。建設現場のような混在作業では元方事業者と関係請負人のいずれにも措置義務が生じる(基発0520第6号)
2025年の熱中症は過去最多。それでも死者は減った
厚生労働省が2026年5月27日に公表した確定値によると、2025年に職場で発生した熱中症の死傷者は全産業で1,803人でした。2005年の統計開始以降で最も多い数字です。前年の1,257人から43.4%増えています。
気象庁によると、2025年の夏(6〜8月)の平均気温偏差はプラス2.36度で、こちらも統計開始以来の最高でした(基準値は1991〜2020年の30年平均)。厚労省は死傷者増加の一因としてこの猛暑を挙げています。
下の図は、この死傷者数(死亡+休業4日以上)の推移を建設業と全産業で並べたものです。死亡者数の推移ではありません。
ところが死亡者数は逆に動きました。2025年は19人で、前年の31人から38.7%減っています。2022年30人、2023年31人、2024年31人と3年続けて30人台だった水準から、はっきり下がりました。
厚労省はこの死亡減について、2025年の労働安全衛生規則改正により重篤化防止対策が進み、死亡災害の防止が一定程度図られたと考えられる、と記述しています。ただしこれは厚労省の推論であって、因果関係が証明されたわけではありません。猛暑の程度も業種構成も年によって動きます。1年分の数字で制度が効いたと断じるのは早計です。
それでも数字が示す構図は明快です。倒れる人は増え、死ぬ人は減っている。分かれ目は「暑い中で人が倒れるかどうか」より「倒れた後にどう扱われるか」に移りつつあります。
建設業は死傷の2割弱、死亡の約4割を占める
業種別に見ると、建設業の位置づけがねじれています。
2025年単年の死傷者数は、製造業365人に対して建設業292人。建設業は2位で、全体1,803人に占める比率は16.2%です。ところが死亡者数では建設業5人が業種別1位で、全体19人の26.3%を占めます。
ただし単年の死亡は全産業で19人、建設業で5人しかありません。この母数で構成比を語ると、1人の増減で数ポイント動きます。単年の26.3%を業界の体質と読むのは無理があります。
そこで5年でならします。2021〜2025年の累計では、死傷5,554人のうち建設業が1,038人で18.7%。死亡131人のうち建設業が52人で39.7%です。死傷では2割弱、死亡では約4割。倍以上の開きがあります。下の図は、この構成比の差を業種別に並べたものです。
プラスは死亡構成比が死傷構成比を上回る業種、マイナスは下回る業種です。建設業はプラス21.0ポイントで、8業種のなかで突出しています。
製造業と比べます。5年累計で製造業は死傷1,063人(19.1%)と建設業の1,038人にほぼ並びますが、死亡は15人(11.5%)で建設業52人の3分の1以下です。5年累計の公表値だけを見ると、倒れる人数は近い一方で、死亡者数には3倍以上の差があります。作業内容も年齢構成も違う業種どうしの比較なので、この差がそのまま安全管理の優劣を表すわけではありません。
もっとも、建設業の側が悪化しているわけではありません。建設業の死亡者数は2021年11人、2022年14人、2023年12人、2024年10人、2025年5人と推移しており、5年で半分以下になっています。5年累計で見た構成比39.7%は「建設業がいま最も危ない」ではなく、「改善してきたが、他業種と比べるとまだ重症化しやすい構造が残っている」と読むのが実態に近い。
この差を「屋外だから仕方ない」で片づけると、打ち手を見失います。2025年の死亡19件のうち屋外は15件で、屋外が多いのは事実です。ただし厚労省が同時に公表している死亡事例の内訳には、環境要因では説明のつかない項目が並びます。労働衛生教育の実施が確認できなかった事例が9件、報告体制の整備と周知が確認できなかったことが明らかな事例が2件、措置手順の作成と周知が確認できなかった事例が3件。糖尿病や高血圧症など、熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を持っていたことが明らかな事例も9件あります。
19件のうち9件で、労働衛生教育の実施を確認できなかったと公表されています。教育が未実施だったとまでは言えません。ただし少なくとも、実施状況を後から説明できる状態になかった現場が半数近くあった、ということです。これは環境の話ではなく、体制の話です。
死亡は午後から夕方。現場を上がった後に悪化する
時間帯の分布に、建設業の実務にそのまま刺さる特徴があります。
死傷者の発生は午前中や午後3時前後に多く、日中のいずれの時間帯でも起きています。しかし死亡災害は多くが午後です。2021〜2025年の5年累計を時間帯別に見ると、15時台21人、17時台20人、14時台17人、16時台14人、18時台以降13人という分布になります(厚生労働省PDF別添の時間帯別表による。上位の時間帯の抜粋です)。
厚労省の資料には、こう書かれています。気温が下がった17時台や18時台以降に死亡に至るケースが少なからずみられるが、これらには、日中には重篤な症状はみられなかったにもかかわらず、作業終了後や帰宅後に体調が悪化した事案が含まれている、と。
2025年に公表された建設系の死亡事例にも、作業終了後に発見された事案があります。上下水道工事業の60代の方が、屋外で資材運搬作業を15時40分に終えました。以後の行動は不明で、18時頃に倒れているところを専務が発見し、翌日亡くなっています。作業中に倒れたのではありません。作業が終わった後です。
朝礼で水分補給を呼びかけ、日中は職長が巡回している現場でも、この時間帯は管理の目が切れます。作業終了後の点呼、一人で残る作業の禁止、帰宅前の声かけ。死亡事例の記述から見て、重点的に点検する価値があるのはこの領域です。ただし、時間帯の偏りと教育の実施を確認できなかった事例数から、死亡との因果関係まで断定することはできません。あくまで、公表された事実がどこを指しているかという話です。
2025年6月から義務になったこと
2025年4月15日に公布され、同年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則(令和7年厚生労働省令第57号)で、第612条の2が新設されました。根拠は労働安全衛生法第22条で、個々の事業者に措置義務が課されます。
義務は2つです。
第1項は、報告体制の整備と周知です。熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業に従事する者が自覚症状を持った場合や、他の者に熱中症が生じた疑いを見つけた場合に報告させる体制を整え、従事者に周知しなければならない。通達(基発0520第6号)では、報告を受ける責任者の連絡先と連絡方法を定めて明示し、作業中は随時報告を受けられる状態を保つこととされています。手段は例示として、責任者による巡視、作業者どうしが相互に健康状態を確認するバディ制、ウェアラブルデバイス、双方向の定期連絡が挙がっています。どれを何種類組み合わせるかは現場条件によります。
第2項は、措置内容と実施手順の作成と周知です。作業場ごとに、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察や処置を受けさせることなど、症状の悪化を防ぐために必要な措置の内容と手順を定め、周知しなければならない。緊急連絡網と緊急搬送先の連絡先をあらかじめ作っておくこと、被災者を一人きりにせず他の作業者が見守ることが通達で示されています。
周知の方法は掲示、メール、文書配布、朝礼での口頭伝達のいずれでも構いません。周知結果の記録保存までは法令上の義務ではありませんが、労働基準監督署に確認されたとき周知した事実を示せるのは記録だけです。記録を残す実務上の意味はここにあります。
どの作業が対象になるかは、暑さの指標と作業時間の両面で定められています。ここで注意したいのは、これが狭い例外規定ではないという点です。夏場の建設現場では、通常の屋外作業、複数現場を移動する作業、臨時・非定常の作業も該当し得ます。「屋外だが短時間だから」「臨時の作業だから」といった理由だけで対象外と判断することはできません。通達には、対象に該当しない場合でも作業強度や着衣の状況によってリスクは高まるため改正省令に準じた対応に努めること、実際に熱中症が疑われる場合は指標の値や作業時間にかかわらず適切に対処すること、も書かれています。
具体的な判定要件は、厚生労働省の通達および公表資料が一次情報になります。本記事では判定に使う数値そのものは扱いません。迷う場合に対象外と決め打ちしない運用が、実務上の安全側の選択になります。誤った当てはめは、そのまま労災につながります。
混在作業では、元請も下請も全員が義務者になる
建設業の経営者が押さえるべき条文解釈は、ここです。通達には次のように書かれています。
建設現場にみられるような混在作業であって、同一の作業場で複数の事業者が作業を行う場合は、当該作業場に関わる元方事業者および関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生ずる。そして、複数事業者が混在して作業を行う状況で措置が行われていなかった場合には、元方事業者のみに違反が生ずるわけではなく、当該作業場に関わる全ての事業者に同条違反が生ずる、と。
「元請がやってくれているはず」は通りません。1次でも2次でも、その作業場に人を入れている以上、自社に義務がかかります。逆に元請の立場から見れば、協力会社が体制を整えていないことが、自社の違反を打ち消す理由にはなりません。
通達は現実的な運用も示しています。各事業者が共同で1つの緊急連絡先を定め、見やすい場所に掲示する方法です。対象作業以外に従事する人が不調を発見することも想定されるため、その作業場にいる全員への周知が望ましいとされています。なお義務の対象となる「作業に従事する者」には、労働者だけでなく同一の場所で当該作業に従事する労働者以外の者も含まれます。一人親方も視野に入ります。
実務としては、既存の安全衛生協議会(災害防止協議会)の議題に載せて記録に残すのが手戻りの少ない進め方です。ただし協力会社が多い現場、夜間作業のある現場、一人親方が入る現場では、各社の体制確認と周知範囲の整理にそれなりの手間がかかります。
国交省は工期と経費を動かし始めた
ここまでは「守る側」の話です。もう一方で、コストと工期を取りにいく制度が動いています。
国土交通省は2025年12月23日、「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を公表しました。担い手確保のため他産業と遜色のない労働条件・労働環境を実現するという位置づけで、受注者が施工の時期・時間・方法を柔軟に選べるよう、工期設定、新技術導入、熱中症対策費用を支援する内容です。柱は4本あります。
- 猛暑期間・時間の作業回避:猛暑日を考慮した工期設定、猛暑期間を休工可能とする工事発注に向けた試行工事、施工回避の協議を特記仕様書に明記、作業の開始・終了時間を監督職員との協議で柔軟に設定、1年単位の変形労働時間制の活用
- 効率的な施工・作業環境の改善:i-Construction 2.0の推進、SBIR制度による技術開発支援の公募
- 猛暑対策に必要な経費等の確保:現場管理費・現場環境改善費への熱中症対策費用の計上、標準歩掛がない作業の見積り精算変更
- 地方公共団体・民間発注者等への周知・要請、好事例の横展開
実務に直結するのは3つ目です。熱中症対策費を現場管理費・現場環境改善費に計上するという整理がついたことで、見積り段階で「対策費をどこに載せるか」の根拠ができました。スポットクーラー、ミストファン、休憩所の増設。これまで自社で飲み込んでいた項目を、発注者との協議のテーブルに載せられます。あわせて、早朝・夜間施工に係る警察や地元との協議には必要に応じて発注者が協力する旨を特記仕様書に記載する、という項目も入りました。近隣調整で早朝施工が頓挫していた現場には使える材料です。
ただし、これは主に直轄工事の話です。地方公共団体・民間発注者への展開は4本目の柱で「周知・要請」の段階にとどまります。自治体案件や民間工事が中心の会社が同じ条件をすぐ取れるわけではありません。
経営判断としてどう構えるか
3つに整理します。
1つ目。義務は掲示物を貼って終わりではありません。第612条の2が求めているのは、報告体制と措置手順を整えたうえで現場の全員に伝わっている状態です。そのうえでデータが指しているのは作業終了後の時間帯です。作業終了時の点呼、一人残しの禁止、体調不良の申告が不利益にならないという明示。この3つが自社の手順書に入っているかが点検項目になります。
2つ目。混在作業の義務は分割されません。元請なら協力会社の体制を確認する立場にあり、下請なら自社にも義務がかかります。既存の安全衛生協議会を使えば着手は早くなりますが、協力会社ごとの体制確認と周知範囲の整理は省けません。夏の入場前に一度通しておく工程です。
3つ目。猛暑対策の経費を、来期の見積りから項目として立てるかどうかです。国交省が現場管理費・現場環境改善費への計上を明示した以上、少なくとも直轄・準直轄の案件では交渉の根拠になります。ただし本当の論点は対策費より日給制の技能者の収入です。休工すれば日給が減る。この構造について、国交省自身が「日給制の技能労働者の年間総労働時間・賃金を確保する方策」を中長期的な課題として挙げています。裏を返せば、制度側の解はまだありません。月給制への移行、猛暑期間を織り込んだ年間稼働計画、1年単位の変形労働時間制。どれを取るにせよ自社で先に決める話です。猛暑を理由に現場を止められる会社と、止めれば職人が離れる会社の差は、ここで開きます。
人手不足が続くなかで、夏に人が倒れる現場は選ばれなくなります。建設業の人手不足対策や離職率のデータと併せて見ると、熱中症対策は安全管理の話であると同時に、採用と定着のコストの話でもあります。労災死亡の全体像は建設業の安全衛生ダッシュボードで確認できます。
数字の定義について
本記事の死傷者数は「死亡者+休業4日以上の業務上疾病者」の合計で、死亡者数はその内数です。休業3日以下および不休災害は含まれません。出典は労働者死傷病報告に基づく厚生労働省の集計で、確定値は当年1月1日から12月31日までに発生し、翌年概ね4月7日までに報告が提出されたものが対象です。最新の確定値は2025年分(2026年5月27日公表)で、2026年分は本記事執筆時点で未公表です。
なお、厚生労働省の死亡事例一覧を見ると、警備業に分類される3件はいずれも道路工事・工事現場・建設現場での交通誘導に関係しています。発生場所は建設現場ですが、業種分類は警備業であり、上記の建設業5人には含まれません。建設現場で起きた熱中症災害の実数は、建設業の集計値より多いと見るのが妥当です。
本記事は法令の一般的な解説です。措置義務の対象となる作業の判定基準、および違反時の取り扱いについては、厚生労働省の公表資料および所轄の労働基準監督署でご確認ください。個別の実務判断は社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
出典
- 厚生労働省「令和7年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)を公表します」(2026年5月27日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73330.html
- 同 別添(業種別・月別・時間帯別・死亡事例の内訳)https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001705024.pdf
- 厚生労働省労働基準局長「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」基発0520第6号(2025年5月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/001490909.pdf
- 国土交通省「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」(2025年12月23日)https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001275.html(概要版 PDF)
- 気象庁「日本の季節平均気温」https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html(2025年夏の平均気温偏差。厚生労働省の上記発表でも死傷者増加の一因として言及)


