
2025年の建設業の倒産件数は2,021件。前年比6.9%増で、過去10年間で最多を更新しました(出典:帝国データバンク「建設業の倒産動向」2025年)。4年連続の増加です。
その内訳が示す構造変化は、件数以上に深刻です。「人手不足倒産」が初めて100件を超え、113件に達しました(前年99件)。仕事はあるのに人がいなくて倒産する。かつてなかった倒産類型が、もはや例外ではなくなっています。
データで見る建設業の倒産で最新の月次倒産データを確認できます。
倒産件数の推移:4年連続増加の意味
【グラフ: 建設業倒産件数の推移(2015-2025年)】
帝国データバンクのデータで推移を見ます。
- 2015年: 1,583件(アベノミクスの建設投資増で底打ち)
- 2019年: 1,414件(過去最少水準。オリンピック需要のピーク)
- 2020年: 1,459件(コロナ禍だがゼロゼロ融資で抑制)
- 2022年: 1,669件(融資返済開始で反転)
- 2023年: 1,891件
- 2024年: 1,892件
- 2025年: 2,021件
2019年の1,414件を底に、6年で43%増。特に2022年以降の増加ペースが急です。
なぜ2022年以降に急増したのか
3つの要因が同時に重なりました。
- ゼロゼロ融資の返済開始: コロナ禍の実質無利子・無担保融資(約42兆円が貸し出された)の返済が2022年後半から本格化。売上がコロナ前に戻っていない企業が返済に行き詰まりました
- 資材価格の高騰: 鋼材・セメント・木材の急騰で、固定価格の請負契約を抱える企業が赤字工事の連鎖に陥りました
- 人手不足の慢性化: 有効求人倍率5倍超の状態が常態化し、工期遅延・受注辞退が増加。人がいないから倒産するという新類型が出現しました
この3つは独立した要因ではなく、相互に悪化を加速させる構造になっています。
原因別の内訳:「新しい倒産」の出現
人手不足倒産: 113件(前年比+14.1%)
帝国データバンクが「人手不足倒産」に分類する113件の実態:
- 職人が確保できず工事を受注できない、または受注しても完工できない
- 技術者の退職で建設業許可の要件(専任技術者の常勤)を満たせなくなるケース
- 経営者の高齢化で後継者がおらず、技術者の退職が引き金になる
この統計が示すのは「人手不足→受注減→売上減→倒産」という新しい因果経路です。従来の「受注過多→資金繰り悪化→倒産」とは逆のメカニズムが働いています。
物価高倒産(資材高騰)
2022年以降、鋼材・セメント・木材の急騰で原価が見積もりを超過するケースが急増しています。
- 固定価格の請負契約で、スライド条項を使わず(使い方を知らず)赤字工事が積み上がる
- 特に下請は元請の指し値を受け入れざるを得ない構造。「元請から2%の値上げをもらったが、資材は10%上がった」
- 資材の調達時期と支払時期のズレ(3-6ヶ月)で、見積もり時点と施工時点の価格差が利益を吹き飛ばす
ゼロゼロ融資の「息切れ」
コロナ禍のゼロゼロ融資は、本来淘汰されるべき企業の延命措置でもありました。
- 融資総額約42兆円のうち、建設業向けは約4兆円(全体の約10%)
- 返済猶予期間が終了し、月々の返済が始まった企業の一部が耐えきれず倒産
- 「コロナ前から経営が厳しかったが、ゼロゼロ融資で延命していた」層が顕在化
この「先送りされた倒産」は2026年まで続く見通しです。
規模別の実態:年商1億円未満が7割
倒産の7割は年商1億円未満の零細企業です(出典:帝国データバンク)。
- 年商1億円未満: 約1,400件(70%)
- 年商1-10億円: 約500件(25%)
- 年商10億円以上: 約100件(5%)
一方、上場ゼネコン58社は売上21.3兆円(前年比+6.9%)で7割が増収となっています(出典:各社決算、2025年3月期)。大手と中小零細の二極化が鮮明です。
零細企業が脆い構造的理由
零細企業は価格交渉力がなく、元請のコスト上昇をそのまま被ります。構造的に以下の脆弱性を抱えています:
- 価格交渉力ゼロ: 元請が提示する金額を呑むか、仕事を断るかの二択
- 専任技術者リスク: 1人しかいない専任技術者が辞めると、建設業許可を失う
- 資金バッファなし: 月の売上がなければ翌月の給与が払えない。手形サイトが90-120日の業界慣行が資金繰りを圧迫
- 後継者不在: 後継者不在率は建設業で64.1%(出典:帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査」2024年)。3社に2社は後継者がいない
休廃業・解散を含めると
後継者不在の企業は「倒産」ではなく「廃業」を選ぶケースも多いです。休廃業・解散件数を含めると、市場からの退出は倒産の2,021件よりもはるかに多くなります。東京商工リサーチの調査では、2025年の建設業の休廃業・解散は9,387件で全産業の中で2位です(出典:TSR「休廃業・解散企業動向調査」2025年)。倒産と合わせて年間約11,000社が市場から退出している計算になります。
地域別の動向:九州は前年比19.6%増
2024年度の地域別建設業倒産件数
(出典:帝国データバンク)
- 関東: 前年比+3.2%
- 近畿: 前年比+8.5%
- 東北: 前年比+12.1%
- 九州: 前年比**+19.6%**(872件)
九州の増加率が全国で最も高くなっています。
九州で倒産が急増する理由
- TSMCバブルの副作用: 熊本のTSMC建設で人件費が高騰し、周辺県の中小建設会社がコスト増を吸収しきれない。「人は取られ、コストは上がり、売上は変わらない」
- 離島・過疎地域の公共工事縮小: 人口減少で自治体の税収が減り、公共工事の発注が縮小
- 住宅市場の急縮: 長崎県の住宅着工は前年同月比-39.1%。持家を主力とする工務店が直撃
倒産の予兆:どの指標を見るべきか
倒産に至る企業には共通する予兆があります。東日本建設業保証「建設業の財務統計指標」のデータから、危険シグナルを整理します。
財務指標の危険水域
指標 | 業界平均 | 危険水域 | 意味 |
|---|---|---|---|
自己資本比率 | 約25% | 10%未満 | 負債が資産の9割超。返済余力なし |
流動比率 | 約150% | 100%未満 | 短期の支払い能力が不足 |
借入金依存度 | 約30% | 50%超 | 売上の半分以上が返済に消える |
完工高営業利益率 | 約2.5% | 1%未満 | コスト上昇を吸収できていない |
行動レベルの予兆
財務指標に加えて、以下の「行動レベルの予兆」にも注意が必要です:
- 下請への支払い遅延が3ヶ月以上(信用情報に影響し、入札参加資格にも波及)
- 主力技術者の退職(建設業許可の要件欠如リスク)
- 公共工事の受注が前年比30%以上減少
- ゼロゼロ融資の条件変更(リスケ)申請
- 取引銀行の格付け引き下げ
自社がこれらに該当しないか、四半期ごとにチェックすることを推奨します。
倒産を回避するための3つの選択肢
データが示す「助かる企業」のパターンは明確です。
1. 早期のM&A・事業譲渡
建設業のM&A件数は2025年上半期で113件。5年前比7割増で過去最多ペースです(出典:日経新聞)。
- 倒産する前に事業を譲渡すれば、従業員の雇用と建設業許可を維持できます
- 売却金額の目安: 年商の0.3-0.5倍(建設業は固定資産が少ないため低め)
- ただし、技術者が在籍していること・建設業許可が有効であることが売却の前提条件。技術者が辞めてからでは売れなくなります
「売れるうちに売る」判断ができるかどうかが、経営者としての最後の仕事になることもあります。
2. 公共工事の比率を上げる
民間工事は価格競争ですが、公共工事は設計労務単価ベースで利益を確保しやすい構造です。
- 経審の点数改善が入口。W点(技術者数・資格)の改善は比較的短期間で可能です
- 2026年度の国土強靭化予算は6.66兆円。インフラ老朽化対策で発注は増える方向です
- ただし公共工事は支払いサイトが長い(完工から3-6ヶ月)。資金繰りの体力が必要です
3. 専門工事に特化する
「何でもやる」総合建設より、1-2工種に特化した専門工事業者の方が利益率が高くなっています。
- 国交省の経営分析データでは、専門工事業の営業利益率は総合建設業の1.5倍です
- 特に解体工事、改修工事、管工事は今後10年で需要が増加する分野です
- ニッチで「替えが利かない」ポジションを取れば、価格競争から逃れられます
まとめ:倒産データから読む経営判断
- 2,021件は「氷山の一角」。休廃業・解散9,387件を含めると年間約11,000社が市場から退出しています
- 人手不足倒産113件は「仕事があるのに潰れる」新類型。今後も増加が見込まれます
- 年商1億円未満が7割。価格交渉力のない下請は構造的に脆い一方、上場ゼネコンは7割が増収。二極化が進んでいます
- 後継者不在率64%。「倒産か廃業かM&Aか」の判断を先送りしないことが求められます
- 九州は前年比19.6%増。TSMC効果による人件費高騰が中小を直撃しています
- 四半期ごとに自己資本比率・流動比率・利益率をチェック。危険水域に入る前に動くことが重要です
- M&Aは「売れるうちに売る」。技術者が辞めてからでは手遅れになります
- データで見る建設業の倒産で月次の倒産動向を確認できます


