
この記事でわかること
アスベストの事前調査は、工事の規模にかかわらず解体・改修工事のすべてが対象です。規模で線が引かれているのは「調査すること」ではなく「調査結果を報告すること」の側で、ここを取り違えると小規模工事でまるごと調査を飛ばすことになります。2026年1月からは一定の工作物の事前調査にも有資格者要件が加わりました。一方で、着工日が平成18年9月1日以降の建築物等には調査方法の簡略化があり、常に有資格者が要るわけでもありません。
主要データ
- 労働基準監督署長への報告が必要な工事:建築物の解体は床面積の合計80㎡以上、建築物の改修は請負代金の額100万円以上、厚生労働大臣が定める工作物の解体・改修は同100万円以上、船舶は総トン数20トン以上(石綿障害予防規則第4条の2第1項)
- 同一の事業者が2以上の契約に分割して請け負う場合は、一の契約で請け負ったものとみなして判定します(同第4項)
- 令和6年度に石綿ばく露作業で労災認定等の事業場として公表されたのは1,257事業場。うち建設業が802事業場で、全体の約6割(63.8%)を占めます(厚生労働省、令和7年12月17日公表 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67011.html 。比率は編集部試算)
- 新規公表に絞ると966事業場中693事業場が建設業で71.7%。建設業のうち新規が占める割合は86.4%、建設業以外は60.0%です(同上、比率は編集部試算)
- 令和6年度の石綿による疾病の労災保険給付は、請求1,529件(前年度比+224件・+17.2%)、決定1,349件(同+41件・+3.1%)、支給決定1,140件(同−30件・−2.6%)。石綿肺は別集計で支給決定71件(同+9件・+14.5%)、特別遺族給付金の支給決定は238件(同+49.7%)(厚生労働省、確定値 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66993.html )
事前調査は全工事が対象。規模で切られるのは報告義務だけです
現場で一番多い取り違えがここです。「80㎡未満だから調査は要らない」「50万円の改修だから関係ない」という理解は誤りです。
石綿障害予防規則第3条第1項は、建築物・工作物・船舶(鋼製の船舶に限る)の解体または改修の作業を行うときに、あらかじめ石綿等の使用の有無を調査することを事業者に義務づけています。作業の規模による除外はありません。10万円の内装改修でも、壁を1枚剥がすなら事前調査の対象です。
規模で線が引かれているのは、その調査結果を行政に報告する義務のほうです。報告が要る工事は下の4区分に限られますが、報告が不要でも調査そのものは省けません。
この2つを混同すると、報告が不要な小規模工事で調査記録が一切残っていない状態になります。労働基準監督署の臨検で確認されるのがこの記録なので、規模の小さい改修を数多く回している会社ほど危ない構造です。
報告が要る工事の線引きと、報告先が2つある理由
石綿則第4条の2第1項が定める報告対象は次の4区分です。
- 建築物の解体工事(当該工事に係る部分の床面積の合計が80㎡以上)
- 建築物の改修工事(請負代金の額が100万円以上)
- 工作物の解体工事または改修工事(請負代金の額が100万円以上。対象は厚生労働大臣が定める工作物に限られます)
- 船舶の解体工事または改修工事(総トン数20トン以上)
条文が書いているのは「請負代金の額が百万円以上」までです。この額を材料費込み・消費税込みで見る点は、環境省が大気汚染防止法側の説明として明示しています(請負代金は材料費を含む作業全体の額で消費税を含み、事前調査の費用は含まない)。税抜98万円・税込107万円の改修工事の扱いは、ここで決まります。
あわせて押さえるのが第4条の2第4項です。同一の事業者が2以上の契約に分割して請け負う場合は、一の契約で請け負ったものとみなして判定します。一の工事を工区や工程で割って契約を分けても、その分割にあたる限りは足し戻して判定されます。
報告先が2系統あるのも実務でつまずく点です。石綿則に基づく報告は所轄労働基準監督署長へ、大気汚染防止法に基づく報告は都道府県または大防法政令市へ行います。根拠法が違うので、片方だけ出して済ませることはできません。対象範囲も完全には一致せず、船舶は石綿則側にだけ出てきます。実務では石綿事前調査結果報告システムから電子申請するのが通常ですが、石綿則側は様式第一号の報告書を提出する方法でも代えられます(同第3項)。
報告の義務者は、原則としてその工事を行おうとする事業者です(第1項)。ただし工事の一部を請負人に請け負わせている事業者があるときは、その事業者が作業の全部について報告します。該当者が複数になるときは、最も先次の請負契約における注文者です(同第5項)。つまり下請に出していれば元請、下請に出さず自社で施工するなら自社が報告します。大気汚染防止法側の報告は元請業者または自主施工者が行います。自社施工だから対象外、という読み方はできません。
2026年1月、工作物の事前調査にも有資格者要件が入りました
資格要件は段階的に広がってきました。
- 2022年4月1日:事前調査結果の報告義務が始まる
- 2023年10月:建築物の事前調査に有資格者要件(厚生労働省「改正石綿則のポイント」)
- 2026年1月:一定の工作物の事前調査に有資格者要件(令和5年厚生労働省令第2号)
工作物側で対象になるのは、石綿等が使用されているおそれが高いものとして厚生労働大臣が定める工作物の解体等です。それ以外の工作物については、塗料その他の石綿等が使用されているおそれがある材料の除去等の作業に係る事前調査に限られます(石綿則第3条第4項ただし書)。プラント設備や煙突、配管といった、これまで扱いが曖昧だった領域が資格制に入りました。
ただし「常に有資格者が要る」わけではありません。第3条第4項は「前項各号に規定する場合を除き」有資格者に行わせる、という構造です。第3項第3号により、新築工事の着工日等が平成18年9月1日以降である建築物等は、その着工日等を設計図書等の文書で確認する方法によることができます。既に相当する調査が行われている場合も同様です(同第1号)。
影響が大きいのは、建築が主力で工作物の解体を年に数件だけ請ける会社です。建築物の調査者は社内にいても、工作物の調査者はいない。年間の受注のうち、着工日等の確認による簡略化によれない案件がどれだけあるかを数えるのが、内製か外注かを決める材料になります。
記録は3年間保存、掲示と写しの備付けは別の義務です
ここは条文の構造どおりに押さえないと、実務が空回りします。
第3条第7項は、事前調査等の結果に基づく記録を作成し、調査終了日から3年間保存することを求めています。起算点は事前調査を終了した日ですが、分析調査を行った場合は、全ての事前調査を終了した日か分析調査を終了した日のうち遅いほうです。記録に載せる事項には、事業者名、作業場所の住所、調査終了日、着工日等、構造、調査した部分、調査の方法、材料ごとの石綿の使用の有無とその判断根拠、事前調査を行った者の氏名などが含まれます。有資格者調査を行った場合は、その者が要件を満たすことを証明する書類の写しも保存対象です。
第8項は別の義務です。解体等の作業を行う作業場には、調査終了日と結果の概要を見やすい箇所に掲示します。そのうえで、石綿等が使用されている建築物等の解体等作業を行う作業場には、記録の写しを備え付けます。掲示は解体等の作業を行う作業場に、写しの備付けは石綿が使われている場合の作業場に、という書き分けです。
石綿で労災認定された事業場の約6割が建設業です
厚生労働省は毎年度、石綿ばく露作業による労災認定等の事業場を公表しています。令和6年度分(令和7年12月17日公表、https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67011.html )は1,257事業場で、内訳は次のとおりです。
- 建設業:802事業場(うち新規公表693事業場)
- 建設業以外:455事業場(うち新規公表273事業場)
建設業の割合は全体の63.8%です(比率は編集部試算)。
もう一段掘ると、別の差が出ます。新規公表に絞った966事業場のうち建設業は693事業場で71.7%。建設業のなかで新規が占める割合は86.4%(693/802)に対し、建設業以外は60.0%(273/455)でした(いずれも編集部試算)。建設業のほうが、毎年あたらしい事業場が公表される比率が高いという結果です。
建設業の労災全体の姿は建設業の労災死亡者は2024年に232人で前年比+9人で整理しています。最新の統計はデータで見る建設業の安全衛生で随時更新しています。
石綿の健康影響は数十年の潜伏期間を経て出ます。いま公表されている事業場の多くは、規制が緩かった時代の作業に起因します。公表制度上の再掲の扱いまでは公表資料から読み取れないため断定はできませんが、新規の比率が高いことは、ばく露が一部の事業場に集中していたわけではないことを示唆します。自社は無関係、という前提を置きにくい数字です。
請求は増え、この区分の支給決定は減りました
令和6年度の石綿による疾病に関する労災保険給付は、確定値で次のとおりです(石綿肺を除く。厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66993.html )。
- 請求件数:1,529件(前年度比+224件・+17.2%)
- 決定件数:1,349件(同+41件・+3.1%)
- 支給決定件数:1,140件(同−30件・−2.6%)
この区分では、請求が17.2%増える一方で支給決定は2.6%減りました。決定件数に対する支給決定の割合(認定率)は令和6年度が84.5%、前年度が89.4%です(厚生労働省の公表資料)。
ただしこの動きを石綿全体の傾向として読むのは早いです。同じ年度に、石綿肺の支給決定は71件で前年度比+9件・+14.5%、特別遺族給付金の支給決定は238件で同+49.7%と増えています。区分によって向きが違います。
単年度の前年度比だけで趨勢は語れませんが、令和6年度に限れば請求は前年度より224件多く、石綿が過去の問題として片付いていないことは読み取れます。
現場でつまずく3点
実務で問題になりやすいのは、法令の解釈よりも運用の抜けです。
1. 「材料費込み・税込」の判定を外す
条文は「請負代金の額が百万円以上」と書くだけですが、材料費を含む作業全体の額で消費税込みという整理が環境省から示されています。見積書の税抜金額だけを見て仕分けている会社は、境界線の案件を取りこぼします。
2. 失敗事例:工区を分けた契約で閾値を下回ったと判断する
1棟の改修工事を、工程の都合で工区A・工区Bの2契約に割って同じ会社が受注し、どちらも100万円未満だから報告不要と処理した現場がありました。石綿則第4条の2第4項は、同一の事業者が2以上の契約に分割して請け負う場合、一の契約で請け負ったものとみなすと定めています。一の工事を割ったものとして整理される以上、合計120万円で判定されます。なお、棟が違えば自動的に合算されるわけではありません。厚生労働省の石綿事前調査結果報告システムFAQは、工事契約が別々であればそれぞれ別々の工事として報告するとしています。合算されるかどうかは「一の工事を分割したものか」で決まるので、契約書の切り方だけを見て判断しないことです。
3. 報告を片方しか出していない
所轄労働基準監督署長(石綿則)と都道府県・大防法政令市(大気汚染防止法)は根拠法が別です。電子システムで申請できるようになったことで意識されにくくなりましたが、紙で処理している現場や、システム外で処理した案件では片落ちが起きます。
経営判断への翻訳
ここまでを、来期の予算と人の話に置き換えます。
第一に、有資格者を社内に何人置くかです。判断材料は「簡略化によれない案件が年に何件あるか」です。着工日等の確認による簡略化は建築物にも工作物にも使えるので、単純に指定工作物の件数を数えると過大になります。数えるべきは、着工日等が平成18年9月1日より前のもの(設備によっては第4号以降の別扱いがあります)と、着工日等を設計図書等で確認できないものです。年に数件なら外注、常時あるなら内製化という比較になります。件数を数えずに講習費用だけで判断すると外します。
第二に、小規模改修の調査記録です。報告が不要な規模でも調査と記録は必要で、ここが手薄な会社ほど件数が多い。1件あたりの手間は小さくても、年間の件数を掛けると無視できない工数になります。様式と保存先、3年間の保存起算点を決めて回すか、都度対応で漏らすかの差が出ます。
第三に、積算への織り込みです。既存建物の改修を扱う限り、石綿の調査は自社の工程に入り続けます。調査費用を1件あたりいくらで見積に載せているか、載せていないなら誰が負担しているかを確認するところからです。載せていない会社は、件数が増えるほど利益率が下がります。
期日が切られた安全規制への対応という点では、建設現場の熱中症対策も同じ型です。義務化の日付から逆算して人と工程を組む話になります。
法令は改正されます。個別の工事における調査・報告・資格要件の適用は、所轄の労働基準監督署・自治体、または専門家にご確認ください。

