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住宅着工件数が80万戸を割っても工事が取れない理由|推移と市場転換

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住宅着工件数が80万戸を割っても工事が取れない理由|推移と市場転換

2024年の住宅着工件数は81.2万戸でした。前年比4.6%減で、ピーク時(1996年の163万戸)の半分を下回っています。さらに2025年には74万667戸と、過去61年間で最低水準を記録しました。「住宅市場は縮んでいる」と言われて久いですが、現場の実感は違います。「着工が減っているのに、なぜか忙しいのに利益が出ない」。この矛盾を、着工統計の内訳から読み解きます。

データで見る住宅市場で都道府県別の着工件数推移を確認できます。

住宅着工件数の推移:50年で半減した市場

【グラフ: 住宅着工件数の推移(1970-2024年)】

国交省「建築着工統計調査」のデータを時系列で見ます。

  • 1973年: 190万戸(過去最高)。高度成長期の住宅不足解消
  • 1996年: 163万戸(バブル後の回復ピーク。消費増税前の駆け込み含む)
  • 2009年: 78.8万戸(リーマンショック後の底)
  • 2020年: 81.5万戸(コロナ禍でも底堅い。テレワーク需要で郊外住宅が増加)
  • 2024年: 81.2万戸(再び80万戸ラインに接近)
  • 2025年: 74.1万戸(過去61年間で最低水準。ついに80万戸を大きく割り込む)

50年で100万戸減りました。ただし減り方は一様ではありません。1996年→2009年の急落(-84万戸)に対し、2009年→2024年は横ばいに近い(+2.4万戸)推移でした。底を打ったように見えましたが、2025年に74万戸へ急落し、減少トレンドが再加速しています。持家・貸家・分譲の構成比が大きく変わっており、「底打ち」は見かけ上のものでした。

80万戸ラインの意味

80万戸は建設業界にとって象徴的な数字です。住宅を手がける建設会社は全国で約10万社。80万戸を10万社で割ると、1社あたり年間8戸になります。元請だけでなく下請も含めた数字ですが、市場の「パイ」がいかに薄いかがわかります。2025年の74万戸で計算すると、1社あたり年間7.4戸まで縮んでいます。

持家・貸家・分譲の構成比転換

2024年の内訳(出典:国交省「建築着工統計調査」)です。

  • 持家: 21.5万戸(26%)。前年比-11.2%
  • 貸家: 34.0万戸(42%)。前年比+0.8%
  • 分譲: 23.7万戸(29%)。前年比-5.3%

持家の崩壊

持家の減少が際立ちます。2000年代初頭には年40万戸あった持家が、半減しました。金利上昇(変動0.5%→固定1.8%前後)が住宅ローンの借入可能額を圧縮し、「買えない層」が増えています。

試算すると、借入額3,500万円・35年返済の場合、金利が0.5%上がると月々の返済額は約7,500円増になります。年間9万円、35年で315万円の負担増です。年収400万円台の世帯がこの差額で審査に通らなくなるケースが出ています。

地方ではさらに深刻です。長崎県の2025年7月の持家着工は前年同月比50%以上の減少でした。人口流出と所得水準の低さが重なり、「地方で家を建てる」層が急速に薄くなっています。

貸家の底堅さ

一方で貸家は底堅い推移を見せています。年34万戸で横ばいを維持している理由は3つあります。

  1. 相続税対策: 2015年の基礎控除引き下げ以降、土地活用としてのアパート建設が継続
  2. 単身世帯の増加: 2025年の単身世帯数は約2,000万世帯。全世帯の38%を占めます
  3. 法人の社宅需要: 外国人労働者の住居確保を含みます

ただし、空き家率は13.8%(2023年、総務省「住宅・土地統計調査」)に達しており、供給過剰の兆候があります。地方のアパート市場は飽和状態で、「建てたが入居者がいない」物件が増加しています。貸家の底堅さがいつまで続くかは不透明です。

分譲の二極化

分譲住宅は「マンション」と「建売」で全く違う動きをしています。

  • 分譲マンション: 首都圏の平均価格が1億円を超え(不動産経済研究所 2024年)、供給戸数は減少。ただし1戸あたりの金額が大きいため、市場規模(金額ベース)は縮んでいません
  • 建売住宅: 価格上昇で購入者が減り、在庫が積み上がっています。パワービルダーの値引き競争が激化しています

都道府県別の格差:全国平均に意味はない

全国平均の「81.2万戸、前年比4.6%減」という数字は、地方の建設会社にとってほぼ意味がありません。地域差が極端に大きいためです。

2025年7月の都道府県別データ

(出典:国交省「建築着工統計調査」、各県公表値)

  • 東京都: 前年同月比+2.1%(マンション需要堅調。再開発エリアの高層マンションが牽引)
  • 大阪府: 前年同月比-3.5%(万博関連のホテル建設は増加するが住宅は弱い)
  • 愛知県: 前年同月比-5.2%(自動車産業のEVシフトで設備投資に資金が向かう)
  • 長崎県: 前年同月比-39.1%(305戸)。人口流出と所得低迷のダブルパンチ
  • 熊本県: 前年同月比+15.8%(TSMC関連の従業員住宅需要)

長崎と熊本で54ポイントの差があります。同じ九州内でも、TSMC効果の恩恵を受ける熊本と、人口流出が加速する長崎では全く別の市場です。

九州のTSMC効果

TSMC熊本工場の建設は、九州の建設市場を歪めています。

  • 熊本県の住宅着工は+15.8%ですが、これは「TSMCの従業員が住む家」の需要によるものです
  • 熊本の地価は上昇し、建設作業員の日当も周辺県より高くなりました
  • 長崎・大分・宮崎の建設作業員が熊本に流出。地元の工事が遅延しています
  • 「TSMCバブルの恩恵は受けないが、人材流出のデメリットは受ける」という非対称な状況が生まれています

データで見る住宅市場では都道府県別の着工件数推移を確認できます。自社の営業エリアの数字を毎月押さえておく必要があります。

金利上昇の影響:「買えない層」の拡大

日銀のマイナス金利解除(2024年3月)以降、住宅ローン金利は上昇トレンドに入りました。

  • 変動金利: 0.3-0.5%(主要行)。据え置きですが、日銀の追加利上げで上昇リスクがあります
  • 固定金利(フラット35): 1.2%→1.8%前後に上昇しています

金利上昇の着工へのインパクト

金利上昇→借入可能額の低下→着工件数の減少という経路は、すでに統計に表れています。

借入額3,500万円・35年返済のケースで、金利別の月々返済額は以下のとおりです。

  • 金利0.5%: 月90,855円
  • 金利1.0%: 月98,799円(+7,944円)
  • 金利1.5%: 月107,164円(+16,309円)
  • 金利2.0%: 月115,941円(+25,086円)

金利が0.5%から2.0%に上がると、月々の負担が25,000円増えます。年収400万円台の世帯にとって、この差は住宅ローンの審査に通るか通らないかの分水嶺です。

建設会社側の対応

金利上昇局面で住宅建設会社が取るべき対応は以下のとおりです。

  • ZEH(ゼロエネルギー住宅)対応で補助金を活用する提案。「建築費は上がるが、ランニングコストが下がる」という訴求が有効です
  • ローコスト住宅の商品ラインナップ強化。ただし価格競争は利益を圧迫するため、限界があります
  • 非住宅(倉庫・店舗・福祉施設等)へのポートフォリオ分散

非住宅・リフォーム市場:成長領域はどこか

住宅着工が縮む一方で、非住宅建築とリフォーム市場は拡大しています。

非住宅建築の成長分野

  • データセンター: 2024年の着工面積は前年比+38%。クラウド需要の爆発でAWS・Google・Microsoftが日本に大規模投資を進めています
  • 物流施設: EC市場の拡大で年間100万m²超の着工が継続しています。冷凍冷蔵倉庫の需要も増加しています
  • 半導体工場: TSMC熊本(第1期完成、第2期着工中)、ラピダス北海道。波及効果で周辺のインフラ工事も増加しています
  • 再生可能エネルギー: 太陽光発電の設置工事、蓄電池施設の建設

リフォーム市場

  • 2025年の市場規模は約7.3兆円(矢野経済研究所 2025年)に達しています。新築の住宅投資額の4割に相当します
  • 空き家数は900万戸(2023年、総務省「住宅・土地統計調査」)。空き家リノベーション需要は今後10年で最大の成長分野です
  • 省エネ改修補助金(住宅省エネキャンペーン)が追い風です。断熱改修・窓改修で1戸あたり最大200万円が支給されます

住宅着工の減少を嘆くのではなく、非住宅・リフォームへのシフトを定量的に判断する材料が、着工統計の中にあります。

2030年の市場予測:60万戸時代に備える

野村総合研究所の予測(2025年)では、2030年の住宅着工件数は70万戸前後、2040年度には61万戸まで減少するとされています。さらに三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2025年)は、2050年に30万戸台まで半減するとの見通しを示しています。

減少の構造要因

  1. 人口減少: 2025年の出生数は70万人を割り込む見通しです。世帯数は2030年代にピークアウトします
  2. 住宅ストックの飽和: 住宅総数6,502万戸に対し世帯数5,588万戸。すでに900万戸が空き家になっています
  3. 金利の正常化: ゼロ金利は異常値でした。1-2%が「普通の金利」になれば購入能力が低下します

建設会社の数は過剰

60万戸時代が来るとすると、現在の建設会社の数(48万3,700社)は明らかに過剰です。住宅専業で見ると約10万社が年間60万戸を奪い合う計算になります。1社あたり年間6戸。これで経営が成り立つはずがありません。

M&A・廃業による業界再編が加速しています。2025年上半期の建設業M&A件数は113件で過去最多ペースです(出典:日経新聞)。事業譲渡や合併で規模を拡大するか、専門工事に特化してニッチで生き残るかの二択が迫られています。

まとめ:着工統計から経営判断を引き出す

  • 全国平均の81.2万戸に意味はありません。自社エリアの都道府県別データを毎月チェックすべきです(データで見る住宅市場
  • 2025年は74万戸に急落。NRI予測では2040年度に61万戸、MURC予測では2050年に30万戸台まで縮小します
  • 持家は年-10%超の減少トレンドにあります。注文住宅一本足の経営は危険です
  • 金利1.5%で年収400万円台が市場から退出します。ターゲット顧客の購買力を数字で把握する必要があります
  • 九州ではTSMCの人材流出効果が深刻です。熊本以外の県は「恩恵なし・デメリットあり」の状況です
  • 非住宅(データセンター+38%、物流施設)とリフォーム(7.3兆円市場・空き家900万戸)が成長領域です
  • 建設会社48万社は過剰です。M&Aか専門特化か、判断を先送りにできる段階ではありません

データで見る住宅市場で最新の都道府県別着工データを確認できます。

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出典:各省庁公式データ。最終更新日を必ずご確認ください。
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