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建設業M&Aの実態|上場企業ベースで5年で約4倍、中小の事業承継の選択肢と許可承継制度

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建設業M&Aの実態|上場企業ベースで5年で約4倍、中小の事業承継の選択肢と許可承継制度

この記事でわかること

上場企業を当事者とする建設業のM&A件数は2020年の9件から2024年の34件へ、5年で約3.8倍に増加しました(レコフデータMARR Online、2026年4月時点)。後継者不在率は2025年57.3%と全業種50.1%を上回り、建設業はワースト水準が続きます(帝国データバンク「2025年後継者不在率動向調査」)。倒産件数も2025年に2,021件まで増えており、廃業を待つよりM&Aを選ぶ経営者が増えています。本記事ではマクロ動向、インフロニアHD×三井住友建設の大型事例、中小の事業承継型M&A、許可承継制度のポイントまで整理します。

主要データ

  • 建設業M&A件数(上場企業を当事者とするケース):2020年9件 → 2024年34件、5年で約3.8倍(レコフデータMARR Online集計)
  • 建設業の後継者不在率:2025年57.3%(全業種50.1%)、全業種ワースト水準(帝国データバンク「2025年後継者不在率動向調査」、2025年11月21日公表)
  • 2018年は71.4%だったところから7年で14ポイント低下、ただし依然高水準(同調査、長期推移)
  • 建設業倒産:2025年2,021件、2021年比でほぼ2倍(帝国データバンク「全国企業倒産集計」年次)
  • 大型事例:インフロニアHD×三井住友建設の経営統合(2025年5月14日 経営統合説明資料で買付代金総額 約940億円、同年9月19日 TOB結果通知(英語)で買付株数126,464,423株。両社2024年度売上単純合算で約1.3兆円規模)

建設業のM&Aは、上場企業の大型再編から地方の専門工事業者まで、複数の層で活発化しています。本記事では公的データと代表事例を軸に、売り手・買い手それぞれの視点で何を準備すべきかを整理します。

関連ダッシュボード:建設業M&A・事業承継データ、関連記事:建設業倒産の構造分析

建設業M&Aの実態 — 上場企業ベースで5年に約3.8倍

レコフデータ(MARR Online)の集計によると、上場企業を当事者とする建設業のM&A件数は次のように推移しています(集計条件:上場企業を当事者、建設業、発表日基準。2026年4月時点で同社が公表した年次データを編集部で集計。件数の追試にはMARR Online内の年次案件データ検索が必要)。

  • 2020年:9件
  • 2021年:17件
  • 2022年:19件
  • 2023年:33件
  • 2024年:34件

5年で約3.8倍。この数字は上場企業を当事者とするケースの集計です。中小企業間の事業承継型M&Aについては、中小企業庁が運営するM&A支援機関登録制度や全国の事業承継・引継ぎ支援センターを通じた成約件数が別途存在しますが、上場企業ベースのデータと単純に合算できる性質のものではなく、本記事では個別に言及します。

件数増加の背景には3つの構造要因があります。

第一に、人手不足の構造的深刻化です。建設技能者の高齢化は解消の見込みが立たず、新規入職者の数も追いついていません。自社単独では人員確保ができないため、人材ごと買収する選択肢に動く企業が出ています。

第二に、資材価格と労務費の高騰です。建設工事費デフレーター(建設総合)は2015年度=100の指数で2026年1月に133.3となり、2015年度比で+33.3%(国交省「建設工事費デフレーター」、令和8年4月号 月例経済)。利益率の低い中小は資金繰りが厳しくなりやすく、倒産件数は2025年に2,021件まで増え、2021年の1,066件から約1.9倍となりました(帝国データバンク「全国企業倒産集計」、2026年1月公表)。倒産する前にM&Aで売却を検討する経営者が増えるのは、この資金繰り環境の下では一定の合理性があります。

第三に、後継者不在の継続です。後継者不在率は2018年の71.4%から2025年の57.3%へと低下していますが、依然として全業種の中でワースト水準です(帝国データバンク「2025年後継者不在率動向調査」、2025年11月21日公表)。同調査は改善の背景として、後継者問題への啓蒙活動、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関の相談窓口、事業承継税制、副業・兼業の広がりなどを要因に挙げています。同調査の就任経緯別の節では内部昇格・非同族承継の進展も確認できますが、これは編集部による補足的な接続です。加えて、廃業による母数の減少も不在率の数字に影響するため、根本的な人材不足が解消したわけではありません。

後継者不在率の長期推移 — 全業種ワーストの構造

帝国データバンク「2025年後継者不在率動向調査」(帝国データバンク調査ページ、2025年11月21日公表)から、建設業の長期推移を確認します。

  • 2018年:建設業71.4%、全業種66.4%
  • 2020年:建設業70.5%、全業種65.1%
  • 2022年:建設業63.4%、全業種57.2%
  • 2024年:建設業59.3%、全業種52.1%
  • 2025年:建設業57.3%、全業種50.1%

建設業の不在率は7年で14.1ポイント低下しました(2018→2025、TDB各年調査)。一見大幅な改善ですが、TDB の説明と編集部の見立てを総合すると、改善の背景には「親族外承継・M&A・内部昇格の進展」と「不在のまま廃業した企業による母数減少」の両方が混在する可能性があります。前者は前向きな改善、後者は事業基盤の縮小を意味するため、不在率の数字だけで「事業承継問題が解決に向かっている」と読むのは早計です。

地域別の不在率には濃淡があり、TDBの都道府県別集計でも差が出ています。ただし都市部と地方のどちらの不在率が構造的に高いかは年によって順位が入れ替わるため、本記事では公式集計で確認できる範囲のみ言及し、地域属性を一括りにした断定は避けます。

大型事例:インフロニアHD×三井住友建設

2025年に公表された建設業界最大級のM&Aが、インフロニアHDによる三井住友建設の買収(公開買付け)です。インフロニアHDは2025年5月14日に「経営統合に関する説明資料」を公表し、買付代金の総額を約940億円と示しました(インフロニアHD 2025年5月14日 経営統合説明資料)。同年9月19日にはTOB結果が開示され、買付株数126,464,423株(買付価格600円)が確認できます(インフロニアHD 2025年9月19日 TOB結果通知(英語))。両社の2024年度売上高を単純合算すると約1.3兆円規模となり、準大手筆頭クラスのポジションが視野に入る案件です。

この案件には、業界再編の典型的な要素が3つ揃っています。

1. 領域補完

インフロニアHDは前田建設工業を中核とする土木系の持株会社であり、三井住友建設は建築・橋梁分野に強みを持ちます。土木と建築を補完する形で統合することで、案件の幅を広げる狙いがあります。

2. 規模の経済

建設業の利益率は他産業に比べて低く、固定費の比率が高い構造です。統合により管理部門の重複を解消し、調達量を増やすことで、資材調達コストの引き下げ余地が生まれます。

3. 人材集約

2024年4月から建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用された結果、技術者の確保競争が激化しています(労働基準法第36条改正、5年猶予期間後の本格適用)。統合により技術者・技能者を一つの会社に集約することで、案件への配置の柔軟性を高めやすくなります。

準大手・中堅クラスでは「単独で生き残るより統合した方が合理的」という判断が広がりつつあり、今後も同種の再編案件が公表される可能性があります。ただし大型案件は個別事情に左右されるため、件数だけを未来予測に直結させるのは避けます。

中小のM&A — 事業承継型の現実

中小建設業のM&Aは、上場企業の再編とは性質が異なります。多くは「事業承継型M&A」と呼ばれ、後継者不在の経営者が会社を譲渡することで雇用と取引関係を残す形です。

中小企業庁は全国に事業承継・引継ぎ支援センターを設置しており、無料での相談・マッチング支援を提供しています。同庁のM&A支援機関登録制度(2021年8月運用開始、登録FAでもMD仲介でもなく中小M&Aガイドラインに沿った業務を行う民間支援機関を登録・公表する制度)を通じて、相談窓口の選定材料が拡充されつつあります。

売却側の動機と準備

売却を検討する経営者の動機は、主に次のいずれかに整理できます。

  • 後継者がいない、または親族が継ぐ意思がない
  • 経営者自身の高齢・健康問題
  • 業界の構造変化に単独では対応しきれない
  • 個人保証から解放されたい

売却を決めたら、3つの準備が必要になります。第一に、許可・財務・労務の整理。建設業許可の更新状況、未払い残業代の有無、税務申告の整合性は買い手のデューデリジェンスで必ず見られます。第二に、属人化された業務の文書化。社長の頭の中にしかない取引関係や見積もりノウハウは、買い手にとって最大のリスクです。第三に、従業員への説明タイミングの設計。早すぎる開示は離職を招き、遅すぎる開示は信頼を損ねます。

買収側の視点

買収側にとって建設業M&Aは、人材・許可・地域基盤を一括で取得できる手段です。特に次の3点が買収の判断材料になります。

  • 建設業許可の業種(土木一式、建築一式、専門工事の許可業種)
  • 有資格者(一級建築士、一級施工管理技士、監理技術者)の数
  • 地場の元請・下請ネットワーク

これらを単独で構築するには相応の時間がかかります。M&Aで一括取得できる利点は大きく、買収後の価値創造が見えやすい領域です。

許可承継制度 — M&Aを後押しする法改正

建設業法は2019年6月12日に公布、2020年10月1日に施行された改正により、建設業許可の承継制度が整備されました。改正前は、M&Aや事業譲渡で許可を引き継ぐ場合、許可番号が新規取得扱いとなり、空白期間が発生する問題がありました。

改正後の手続きは、承継のタイプによって分かれます(国交省「建設業法施行規則」、関東地方整備局案内など参照)。

  • 譲渡・合併・分割(事業承継):あらかじめ国土交通大臣または都道府県知事の認可を受ける「事前認可」方式。承継元と承継先の双方が事前申請する。
  • 相続:被相続人の死亡後30日以内に相続人が認可申請する「事後認可」方式。事前認可ではない点に注意。

この制度により、M&Aの当事者は許可の空白期間なしで事業を引き継げるようになりました。一方で、認可の条件・必要書類・審査期間は厳格に定められており、実務に踏み込む際は最新の運用要領(国土交通省または各都道府県窓口)と行政書士・弁護士・税理士・M&A仲介業者などへの確認が必須です。

本記事では制度の存在と趣旨の紹介にとどめます。詳細な要件・手続きは法令改正で変わり得るため、必ず最新の公式情報を参照してください。

これからの建設業M&A — 2026年以降の論点

2026年以降のM&A動向で注視されている論点は3つあります。いずれも一次情報での検証は限定的なため、観測される傾向としてまとめます。

1. 中小M&A支援機関登録制度の浸透

中小企業庁が認定するM&A支援機関登録制度は2021年8月運用開始。地方銀行・信用金庫・事業承継・引継ぎ支援センターが M&A仲介の窓口として参画する流れが続いています。中小建設業の経営者が相談できる窓口は確実に増えており、情報の非対称性は縮小する方向にあります。

2. 大手の専門工事業者買収

大手ゼネコンが専門工事業者を子会社化する動きが報じられています。鉄筋工事、型枠工事、設備工事といった専門領域で、人材確保と工事品質管理を内製化する戦略です。下請の専門工事業者にとっては、独立を維持するか、大手の傘下に入るかの選択肢が現実味を帯びる場面が一部で出てきます。

3. PEファンドの参入観測

建設業はこれまでPE(プライベートエクイティ)ファンドの関心が低い領域でしたが、人手不足とDXの組み合わせで成長余地があると見るファンドの関心が報じられています。地方の有望な専門工事業者を複数買収し、共通インフラ(CCUS、クラウド管理、共同調達)で効率化する「ロールアップ戦略」も検討対象に入ってきたとされ、今後の事例蓄積を注視する段階です。

まとめ — M&Aは「最後の手段」ではなく「選択肢の一つ」へ

上場企業を当事者とする建設業M&Aの件数は5年で約3.8倍に拡大しました。後継者不在率は依然57.3%と高水準ですが、廃業を待つしかなかった時代から、M&Aで雇用と取引関係を残せる時代へと変わりつつあります。

経営者が取り組むべき点は2つに整理できます。第一に、自社の企業価値を客観的に把握すること。地方銀行・事業承継・引継ぎ支援センター・M&A仲介業者のいずれかに、業績が安定しているうちに相談を始めることです。第二に、許可・財務・労務・属人化業務を整理しておくこと。買い手のデューデリジェンスに耐える状態を作ることが、企業価値の最大化につながります。

2025年5月14日にインフロニアHDが公表した三井住友建設との経営統合(買付代金総額 約940億円。経営統合説明資料2025年9月19日 TOB結果通知)は、業界全体を象徴する案件です。大手も中堅も中小も、単独経営の限界を意識する場面が増えています。M&Aを「失敗の証」ではなく「事業を残すための選択肢の一つ」として位置づけ直すことが、これからの建設業経営の前提整理になります。

関連リンク:建設業M&A・事業承継データでは後継者不在率とM&A件数の最新推移を確認できます。建設業倒産の構造分析もあわせてご覧ください。

本記事のデータは執筆時点(2026年4月)の公開情報に基づきます。M&A・許可承継・税制の手続きや要件は法令改正により変更されます。具体的な判断は必ず最新の公式情報と専門家(弁護士・税理士・M&A仲介業者・行政書士)の助言に基づいて行ってください。

法令は改正される場合があります。実務判断は専門家にご相談ください。
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